ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ」(2022)

作品情報

原題:Chip 'n' Dale: Rescue Rangers

監督:アキバ・シェイファー

出演:ジョン・ムレイニー/アンディ・サムバーグ/キキ・レキン/ウィル・アーネットエリック・バナセス・ローゲンJ・K・シモンズ

制作国:アメリ

上映時間:98分

配給:Disney+

あらすじ

幼馴染のチップとデールは主演を務めたアニメシリーズをきっかけに世界的な人気者となるが、シリーズは突然打ち切られふたりは別々の道を歩むことに。30年後、チップは郊外で保険のセールスマンに、デールはCG手術を受け、懐かしのスターが集まるファンミーティングイベントに明け暮れ過去の栄光に思いを馳せていた。そんなある日、謎の失踪を遂げたかつての共演者を救うためふたりは再びコンビを組むことになる。

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ディズニーが本気で作った正気を疑う「レディ・プレイヤー・1」

チップとデールといえば、ディズニーが誇るシマリスの人気キャラクターということは皆さんご存知だろう。

本作は1989年製作のアニメシリーズ「チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ」をモチーフにしている。

出演番組が打ち切られ落ちぶれた末にチップは保険屋に、デールはCGキャラへと整形手術を行いコミコン的なイベントで過去のグッズやサインで日銭を稼ぐ生活を送っていたが、過去の共演者の誘拐事件をきっかけに借金を抱えたアニメキャラを著作権回避のため微妙に違う見た目にして中国のパチモン映画に売り飛ばす闇の組織と戦うことになる。

 

何を言っているかさっぱりわからないだろうし、自分でも何を書いてるのかよくわからない。

なぜかディズニー公式はチップとデールを題材にこんな尖りすぎた企画にゴーサインを出してしまったのだ。

映画を見終わってからもあのディズニーが自社キャラクターたちをかき集めてこんな汚れ仕事をさせたという事実がしばらくは飲み込めない。

凄いのはここからで、ディズニーだけでも今や版権の帝王だというのに、何故か「〇〇7」「E.〇.」「バッド〇〇vsスー〇〇マン」、挙句の果てに「ネットで叩かれまくった修正前の実写版ソニ〇〇」がまさかの重要キャラクターとして奇跡の復活を果たすなど、他社作品キャラもオールスター出演。

カメオや有名映画のオマージュなどを含めたらキリがない。

版権手続きもそうだが、どうやって先方を納得させたのか想像もつかない、狂人が考えた汚い「レディ・プレイヤー・1」状態。(監督によるとディズニーの弁護士が死ぬほど優秀だったらしいが)

何度でも言うが、どうして今のディズニーにこれが作れたのか......

 

このイカれた映画を手がけたのはアメリカのコメディグループ「ザ・ロンリー・アイランド」のアキヴァ・シェイファーで、同じくメンバーのアンディ・サムバーグはチップの声優を務めている。

彼らは非常に優秀なコメディ映画製作者で、傑作「ブリグズビー・ベア」やコロナ禍に公開され目立たずに終わったタイムループ映画の佳作「パーム・スプリングス」などでプロデューサーを務めた実力派だ。

なぜ彼らがディズニーと仕事をしてこれを作れたのかはよくわからない。

 

そして、彼らが手がけたということはこの映画がただのオゲレツコメディ映画では終わっていないことを意味している。

まずアニメーション作品として凄いのは、あらゆる表現技法で描かれたキャラクターを一つの画面に共存させている点だ。

基本は実写映画なのだが、チップたちは作画の2Dキャラクター、デールのようなフル3DCGキャラもいれば、クレイアニメにパペットアニメ。

動きの癖も全く違うフレームレートで動くキャラクターたちが自然な形で共演し、挙句の果てにせるアニメキャラが3DCGの服や小物を身に付けたりしてもうわけがわからない。

 

そんな変態技術への挑戦も行う真面目かアホかわからない映画なのに、ストーリーはショービズ界の栄光と転落、映画産業に消費された人々を残酷なほど生々しく描き、ハリウッドに対する皮肉混じりの問題提起まで取り込んだめちゃくちゃきちんとした脚本。

ダメな大人たちの再起と友情の物語も定番だがしっかり胸が熱くなる仕上がりを見せている。(それをチップとデールでやるのか)

 

今のディズニーに「チップとデール」でこんな毒まみれのシュールな映画を作る気概があったことを僕は大いに評価したい。

かなり映画ファン歓喜の映画にも仕上がっているのに、サブスク加入者としかその感動を共有できないのはいかがなものだろう。

配信限定にするには面白すぎる。(配信限定だからできたのか?)

 

文化の分断を許してはいけないので、こんな映画もあるということを僕はここに書き記す。