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映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「アイカツ! 10th STORY 〜未来へのSTARWAY〜」(2023)

作品情報

監督:木村隆一

出演:諸星すみれ田所あずさ大橋彩香黒沢ともよ沼倉愛美三村ゆうな瀬戸麻沙美安野希世乃寿美菜子下地紫野和久井優石川由依

制作国:日本

上映時間:72分

配給:バンダイナムコピクチャーズ

年齢制限:G

あらすじ

スターライト学園高等部3年の星宮いちご、霧矢あおい、紫吹蘭たちは、半年後に控える卒業を意識し始める。それぞれアイドルとしての活動は続くが、卒業は人生の大きなひとつの分岐点。自分達はこれからどんな道を歩みたいのかを、大切に考え始めるいちごたち。そんな彼女たちは未来への新たな一歩を踏み出し、卒業ライブのステージでそれぞれの想いを明かす。

 

解説

人気アイドルアニメ「アイカツ!」シリーズの10周年記念作品。2021年に公開された「劇場版アイカツプラネット!」と同時上映の短編にストーリーを追加した長編版。監督の木村隆一、脚本の加藤陽一ら、シリーズ1作目を手がけたスタッフやキャストが再集結した決定的な作品。

 

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10年前のファンにも10年間愛したファンにも応える 成長したキャラから送られる最高のエール

皆さんは「アイカツ!」をご存じだろうか?

見ると人生の悩みの10割が解決すると言われている伝説の女児アニメだ。(今は効かないがそのうち癌にも効くようになる)

2012年に放送を開始し、その骨太なストーリーと音楽英才教育と呼ばれるほどの多彩なジャンルの楽曲で子どものみならず大人までも魅了し、3年半で全178話と劇場2作品、その後10年に渡り別シリーズが作られ続ける礎を築いたアイドルアニメの金字塔的作品だ。

 

この映画はその「アイカツ!」の完結編。

10年前に番組を見てくれていた子どもたち(公開時には高校生〜大学生想定)を中心にターゲッティングしたこの映画は、狙った客層にクリティカルヒットし、大人のオタク以外にもしっかりリーチして結果を残した。

公開前のあらすじでは高校卒業における将来を考えるドラマを匂わせるものだったが、蓋を開けてみれば大学卒業、新社会人、少し慣れてきた2〜3年目の社会人にまでブッ刺さる「もう一歩を踏み出す勇気をもらえる物語」を72分に全てまとめてお届けする衝撃の構成を繰り出してきた。(72分しかないのに!?)

 

もはや子ども向けでないのに70分台にまとめたのは、曲がりなりにも女児向けでやってきたことへの意地か、それとも予算の都合か。

いずれにせよ、そんな難しい尺の問題をまさかの「時系列シャッフル」で解決。

第二幕に卒業から4年ほど経過した大人編を持ってくることで、過去の自分達が未来の自分達の支えになっていると言おう映画の(そして主題歌の)テーマ性を強調しつつ、クライマックスを卒業ライブで盛り上げて締めることに成功した。

ターゲット層が大人だからこそできたトリッキーなテクニックである。

 

新曲「MY STARWAY」はしっかりといつものソレイユ曲タッグ、こだまさおり先生×石濱翔さんだ。

この必殺曲(文字通り人を必ず殺す)でソレイユの物語に幕を下ろし、エンディングの新曲「氷の森」ではソレイユからさらに「星宮いちご」という主人公個人の物語にフォーカスを絞る。

卒業ライブ準備中や、その後のいちごちゃんが感じたであろう意識や気持ちの揺れ動き。

映像化されていない部分を只野菜摘先生の歌詞と、石川佳代子神が優れた洞察力で描いたアニメーションが89秒で物語る。

物語と楽曲が表裏一体、双方の物語が補強しあって堅牢な作品に仕上がってきたアイカツシリーズだが、キャラクターの気持ちの汲み取り方の次元が違う、ラストを飾るにふさわしい完璧な新曲たちを劇場のパワフルなスピーカーで5.1ch環境の中聴けたことは一生の思い出だろう。

 

妥協のない姿勢で「アイカツ!」というコンテンツとお客さんにこだわりを持って作り続けたスタッフたちの10年の集大成。

もちろんこれだけ見て真に理解できるものではないが、独立した映画として観るにも同ジャンルのアニメーション作品とは一線を画す骨太なテーマとメッセージ性がある。

 

思い出は未来の中に。

昨日より今日を、今日より明日をさらに良い日に。

そんな未来へ進むメッセージを発信し続け、子供を育て大人を泣かせ奮い立たせてきた本シリーズ。

この映画では「今をがんばればお互いもっと素敵になってまた再開できるから。だから今は安心して未来へ進もう」という頼もし過ぎるテーマが込められている。

 

そんな至れり尽くせりなアニメがあるのか。

鋼の意志の引きこもりも「じゃあ・・・」ってなるよこれは。

 

アイカツは人生。

これが1mmも盛られていない真実であることに初めて気づいたのはシーズン1の5、6、7話まで見た時だ。

その後の怒涛の展開は凄まじく50話まであっという間。

そこから178話なんて一瞬で過ぎ去る。

嘘か誠か、気になる人は自分の目で確かめてみてほしい・・・(これが沼か)

 

 

2023/6/2追記

念願のSTARWAYブルーレイが発売したので見た。

予約した時点で「元々全3話の構成を1本の映画にまとめていたので、それに分割してOPEDをつける」という情報は把握していたし、物分かりもいいので「あぁ、これは最後の黒味エンドロールのSHINING LINE*とラストの立ち絵イラスト表示はカットだな」と覚悟はしていた。

ただ、まさか全話EDが「氷の森」になっているのだけは予想してなかった。

1話のエンディングは同時上映版の「カレンダーガール」が至高だったし、円盤で劇場版が分割されるのも、それと引き換えだから甘んじて受け入れるくらいの気持ちだったので普通にガッカリした。

最後Cパートのあおいちゃんのセリフが「思い出はきっと、未来の中に!」なんだからあれを1話で切るなら「カレンダーガール」は最良の判断だったはず。

だから2話のエンディングは何かなぁなんて想像も楽しかったし、全ての総括で「氷の森」さえ流れてくれればまあ許そうと、そう思っていた。

多分円盤を買ったアイカツおじさんたちの中でも相当ハードル低く寛容な姿勢で待っていただろうという自負があるので、ノーガードであの改変を喰らったおじさんたちの心中は察するに余りある。

お大事にしてください。

 

劇場公開版、同時上映版も含めて欲しかったなというのが正直なところです。

でもなぜか、OPの「MY STARWAY」は同時上映版と劇場版が2種類特典で収録されてるんですよねぇ。(全然違いわからないけど)(そしてなぜそこは気が利いた)