ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「さすらいのレコード・コレクター 〜10セントの宝物」(2018)

作品情報

原題:Desperate Man Blues

監督:エドワード・ギラン

出演:ジョー・バザード

制作国:オーストラリア

上映時間:52分

配給:スリーピン

年齢制限:G

あらすじ

アメリカに暮らすレコードコレクター、ジョー・バザードのレコード探しの日常を追ったドキュメンタリー。彼は発売当時10セントで売られていたブルース、カントリーなどさまざまなジャンルのレコードを収集し、自室の地下には膨大なコレクションが鎮座している。音楽を心から愛しながらもロックやヒップホップは癌だと断言してはばからない一面を持つ頑固なコレクターであるバザードは、一枚でも多くの「本当のアメリカン・ルーツ・ミュージック」のレコードを探し出して救うことを自らの使命としていた。

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なぜコレクションするのか、なぜコレクションが楽しいのか

アメリカのメリーランドに暮らすレコードコレクターであるジョン・バザードのドキュメンタリー。

ぶっとい葉巻を加えたジジイが楽しそうにレコードをかき集め、それをプレイヤーにかけながらその時代の音楽がいかに素晴らしかったかを話す。

「ロックは癌だ。世界の音楽を全てロックにして各地の伝統的な音楽を全て殺した」「ジャズは1933年に死んだ」など極端な暴言しか飛び出さない尖った価値観が完成し切ったその姿は見ていて気持ちがいいほどだ。

 

僕もコレクター気質で気に入った映画の盤やアニメのグッズをかき集めていて、いわゆる「スター・ウォーズと書いてあれば子供用パンツでも買う」タイプの人間である。

そんなコレクターの端くれとして彼の生き様には強く惹かれるものがあった。

 

彼のレコードを集める基準はただひとつ、「自分が好きな音楽」であることだ。

映画のタイトルからもわかる通り彼が集めるレコードは当時10セントで売られていたもので、現在も別にプレミアがついているわけではない。

日本で言えばブックオフとかで100円や50円のワゴンにいるCDをかき集めているようなものかしら。

 

他人には無価値でも自分にとっては宝物。

とにかく自分が好きな音楽の盤をかき集めて自室の地下に保管し、葉巻を吸いながら音楽に浸る。

そんなに煙が充満した部屋では集めた物の状態には絶対影響があると思うのだが、彼はそんなこと気にしていない。

いわゆるコレクターというと、貴重な品の状態を綺麗に保ち大事に保管するタイプを想像するが、その物の価値に関係なく自分が好きなものをひたすら集めるのもコレクターのひとつの形だと思うし、バザードは後者の到達点だ。

 

そんな集めたレコードには資産的価値はないかもしれないが、流通にも配信にも乗っておらずもうほとんど聞く手段がない音楽ばかり。

だが、何度もリリースされ直したりデジタル配信もある世界的バンドの音楽よりも、70年前に発売したレコード以外で聞く手段が残されていない消えていった無名の音楽たちは、ある意味では他の何よりも貴重と言えるのではないだろうか。

 

僕の場合は映画だが、「配信や盤で何かしら見る手段がある」「盤はプレミアがついているが配信で見られる」「配信はなくDVDもプレミア、一応金を出せば見れる」「配信にはなくDVDもない」「TSUTAYAのレンタルしか手段がなかったけど最近潰れて見れなくなった」など様々なレアリティランクが存在する。

そもそもこの映画自体、「2003年の映画だが日本未公開でDVDもなく、2018年に一部劇場で公開されたがその後も国内販売はないのでマジで映画館で見た人しか知らない映画」というポジションだ。

ある意味バザードの集めるレコードっぽいし、この映画を劇場で観た人は彼の生き様に近い同好の士と言えるだろう。

 

そんな彼の生き様は、僕から見て理想的だった。

純粋に好きなものをかき集め、過剰に大事にもしなければ粗末に扱うわけでもない。

世界からその音楽に触れる手段を絶やさないよう自分が最後の砦になるという強めの思想、コレクターになるタイプの人間の原初の思想すぎて笑ってしまった。

僕が映画の盤やパンフレットを買い、チラシを集める理由も大体一緒だし、コレクター気質の人間には世界共通の認識なんですかね。

 

レコードに限らずコレクターという人種に響く金言が連発。

コレクションという幸せな罪を背負ってしまった者の端くれとして、様々な気づきや学び、大切な何かを思い出したような気持ちになる映画でした。

 

 

ちなみにジョン・バザードは2022年9月に86歳で死去。

膨大なコレクションがどうなるか気になってたのですが、流石に遺族も管理しきれないので好きな人の手に渡るようオンラインで売りに出されたみたい。(博物館への寄贈は埃をかぶって倉庫に死蔵されるがオチだから嫌だったそうな)

当初はeBayで売る予定だったそうですが、なんか専門のオークションサイトが作られたのかな?

 

視聴もできるようなので興味があれば、ぜひ。