作品情報
原題:Golden Voices
監督:エフゲニー・ルーマン
出演:ウラジミール・フリードマン/マリア・ベルキン/アレキサンダー・センドロビッチ/エベリン・ハゴエル
制作国:イスラエル
上映時間:88分
配給:ロングライド
あらすじ
1999年、ソ連からイスラエルへ移民したヴィクトルとラヤは、かつてソ連に届く欧米の映画の吹き替えで活躍した声優夫婦だった。第二の人生を謳歌するつもりで移民をしたものの、イスラエルでは声優の需要がなかった。生活のためラヤは夫に内緒で始めたテレフォンセックスの仕事で思わぬ才能を発揮し、ヴィクトルは海賊版レンタルビデオ店で違法な吹替版を作る職を得る。しかし、秘密がバレたのをきっかけに、お互いが長年気づかぬふりをしてきた夫婦の本当の声が噴出し始める。
夫婦愛と映画愛がじんわり沁みる暖かい笑いで包まれた、90年代イスラエルという時代の記録
Netflixに加入してから世界にはこんなにも色々な吹き替えが溢れていることを知ったのだが、日本では馴染み深い吹替声優という仕事も海外では字幕が当たり前で吹き替えの文化がない国も多いようだ。
というか鉄のカーテン時代のソビエトでも検閲を突破した西側の映画は吹替版を作って見ることが出来たのも驚き。
そんなペレストロイカが進んだソ連からイスラエルへ移住した声優夫婦は、この国に声優の仕事がないことに引っ越してから気づくというコメディ。
声優の夫婦を主役にするという目の付け所が実に面白い。
移民後に発生した問題のせいで、夢見がちの夫とリアリストな妻の間にうっすらあった夫婦の溝が顕著に深くなっていく。
夫は映画泥棒からの吹替版作成バイトで金を稼ぎ、妻は夫に内緒でテレフォンセックスのバイトをする。
そして夫はどんな声も出せるのに自分自身の声や芝居がわからないアイデンティティの危機に直面し、妻は相手の理想の声を演じるうちにそれが本当の自分だと錯覚し始め電話相手と浮気に走る。
熟年夫婦問題、ロシア系ユダヤ人の移民の難しさに加え、ミサイルや毒ガスの脅威が日常のイスラエルという土地柄など、たくさんのヘビーなテーマをユーモア溢れるコミカルなタッチで描いていく。
「吹き替えこそ映画の入り口」というセリフに溢れる吹替声優の矜持。
僕には大変刺さる。
変化に適応することの難しさや、本当に大切なものが何か、そのために何ができるか、そんな人生の教訓もさらっと織り交ぜるバランス感覚。
普遍的なメッセージをフセイン時代のイスラエルでしか出来ないミサイルと毒ガスで描く豪胆っぷり。
まだアラフォーの監督とは思えないセンスの良さを感じた映画だった。
特にレンタル屋や映画館のエピソードに監督の深い映画愛を感じる。
吹き替えや声優の文化が成熟している日本人が見ると色々発見がある映画かもしれない。