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映画「イカロス」(2017)

作品情報

原題:Icarus

監督:ブライアン・フォーゲル

出演:ブライアン・フォーゲル/グレゴリー・ロドチェンコフ

制作国:アメリ

上映時間:121分

配給:Netflix

あらすじ

自転車選手でもある監督のブライアン・フォーゲルは、ドーピング検査の有用性検証のため、自ら薬物を摂取しドーピング検査を通過できるか実験しようと思い立つ。ロシアの専門家のロドチェンコフにコンタクトを取り実験に協力してもらうのだが、実はロドチェンコフが国家主導のドーピング計画に関与していることが判明し、事態は思わぬ方向へと進んでいく。

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「ドーピングやってみた」動画を撮ろうと思ったらうっかり国家主導の闇を引きずり出してしまった衝撃のドキュメンタリー

「アマチュア自転車選手だけどドーピング検査がちゃんと機能してるか自分がドーピングして試してみた」というドキュメンタリーを作ろうとロシアの博士に接触したら国家規模のドーピング事件に巻き込まれてしまい、国際問題に発展したニュースの裏側を全部カメラに収めてしまったフィクション顔負けのドキュメンタリー。

どうしてロシアが絡むといつもフィクションを超えた現実が顕現してしまうのか。

 

監督がドーピングの指導を依頼したグレゴリー・ロドチェンコフ博士はロシアの反ドーピング機関の所長で、オリンピック選手団のドーピングに関与していた。

彼の指示通りにドーピングを続け監督の筋力は順調に増大。

しかし肝心の大会では自転車が壊れるトラブルに見舞われ、結局成績は前年より下がった。

結局ドーピングしたからって勝てるわけじゃないね、チャンチャン。

というとても微妙な内容で終わろうとしていた監督に映画の神様が舞い降りた。

 

2014年のソチオリンピックでの大規模ドーピング問題がドイツメディアに報じられた。

その後、機関の前の責任者2名が相次いで不審死したとして身の危険を案じたロドチェンコフ博士はアメリカに亡命。

その亡命を手伝ったのがこのフォーゲル監督であり、事の顛末をとらえたのがこの映画だ。

 

陰謀に巻き込まれた監督はロシアドーピング界の心臓と呼ばれた博士の亡命を手伝うことになるが、その間にも関係者が次々に謎の死を遂げていく様子はかなりスリリングで緊張感に溢れており、フィクションなのではと疑うレベル。

 

亡命した博士は身の安全の補償と引き換えに、全てを公の場で証言することになる。

そこで語られる国家ぐるみのドーピングの実態はあまりにも巧妙でほとんどスパイ映画のそれ。

これが公になったことでロシアのスポーツ選手はかなりの大会でしばらく出場禁止に。

昨今のロシア関連の事情、戦争という明確な犯罪行為をしながらも石油やお金というしがらみで非難する立場を取れない国が多いことを考えると、当時から見て見ぬふりがされていたのではないかなとも思ったりする。

 

こうして映画になったことで歴史から消された人、消されそうになった人、消えなかったけど影に隠れてしまっている人に光が当たり、アカデミー賞を受賞したことで永遠に歴史に残ることになったのだ。

 

純粋に一本の映画としても面白く、それだけではない映画の持つ社会的意義も兼ね備えた「映画の力」を体現する必見の作品。