作品情報
原題:Kaakkaa Muttai
監督:M・マニカンダン
出演:ラメーシュ/ビグネーシュ/アイシュワリヤー・ラージェーシュ/ヨーギ・バーブ/シャーンティ・マニ
制作国:インド
上映時間:90分
配給:FOX
あらすじ
南インドの都市チェンナイにあるスラム街で母や祖母と暮らす兄弟。ある日、スラムの近くにピザ屋がオープンし、生まれて初めてピザを見た二人は食べてみたいと熱望する。しかし、ピザは彼らが1か月働いてようやく手に入る高価な物。懸命に働いてお金を貯めた兄弟はピザ屋へ向かうが・・・
インド映画の常識を覆す、活力に満ちたコメディとスラム街の現実を描いた児童映画
国内上映とセル販売なし、レンタルと配信のみで見られるインド映画。
90分というインド映画にあるまじき短さで、歌も踊りもなく色んな意味でインド映画の常識を覆された一作だ。
児童映画というのはインド映画のジャンルで、インドは国が子供のための映画制作を推奨しているのだ。
そんなインド映画「ピザ!」は、スラム街に住む幼い兄弟が近所にできたピザ屋のピザを食べるために奮闘するコメディだ。
一応ジャンルはコメディで実際映画もコメディタッチで作られているが、スラム街ジョークがあまりにも尖りすぎていて笑っていいのか判断に困る。
彼らが行う金を稼ぐ方法がマイルドな犯罪で、予告編でもわかる通り電車に乗る人の腕を殴って落としたスマホを盗んだり、くすねた石炭を売ったりする。
途上国のスラムでは当たり前なのかもしれないが、やはりこれがコメディのノリで通用するところにやはりギャップを感じる。
子供たちもなかなかのクソガキで、父親が勾留されていて保釈金が必要だと嘆く母に「親父よりピザだろ」と稼いだ金を渡さないし、あまりにもピザピザ言いすぎて見かねたおばあちゃんがドーサでピザを作ってくれたのに「こんなんピザじゃねえ!」と怒鳴り散らかして家出。
ネタバレだがそのままおばあちゃんは死んでしまうので引き笑いみたいになってしまった。
ピザ屋もピザ屋で地元政治家の、街のチンピラ、裏金、様々な事情が絡んでいて、スラム街を取り巻くインドのリアルな社会構造を描いている。
とにかくピザが食いたい子供たちと権力者ら大人たちを中心に、貧富の差や虐待など、強烈な社会問題を取り込んでいて、ただの倫理観がやばいコメディでは終わらない底知れぬ映画。
それでも基本子供たちは楽しそうで、辛そうな場面もそこまでしんどくならないのは、やはりインドの児童映画というジャンルとして作られているからだろうか。
こういう映画を通して綺麗事だけではない海外のリアルな姿、思想や価値観を感じるのが映画の楽しみで喜びだ。
とにかくトリッキーな脚本でオチまで鋭さが全く鈍らないし、この映画の明るさとコメディと社会派の絶妙なバランスは言葉では形容し難いので見て理解するしかない。
インドはこういう映画でも戦える国なのだ。