ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

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映画「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車」(2014)

作品情報

原題:Kraftidioten

監督:ハンス・ペテル・モランド

出演:ステラン・スカルスガルドブルーノ・ガンツ/ポール・スペーレ・ハーゲン/ビアギッテ・ヨート・ソレンセン

制作国:ノルウェースウェーデン合作

上映時間:112分

あらすじ

長年に渡り除雪車の運転手を続け、市民栄誉賞を受賞したニルス。喜ぶ彼の元に最愛の息子の訃報が届く。息子がドラッグを盗んだ友人のとばっちりで殺されたと知ったニルスは復讐を決意。そんな彼の行動が街を牛耳る二つの犯罪組織同士の抗争を招いてしまう。

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逆ポスター詐欺だが完全に違うとも言い切れないオフビートな北欧クライム映画

息子の復讐に燃える父、このポスターと邦題、火を見るよりも明らかなB級アクションポンコツムービーなタイトルとパッケージからは想像もできない抑制の効いた演出の小粋な正統派北欧映画。(そして人がたくさん死ぬ)

荘厳で美しい北欧の雪景色で構図がバリバリに決め、雪が全ての音を吸い取ってしまったかのような静謐な世界。

こんなにオシャレな映画がファイティング・ダディ?

悠久の時を感じてしまうような圧倒的な雪景色の真ん中を孤独に突っ切るあいつが怒りの除雪車なのか?

きっとここから凄いジャンキーな映画になるんだろう・・・と思ったらタランティーノとかコーエン兄弟に北欧映画のオサレ感が融合した凄まじいオフビートクライムドラマが展開されていく。

 

主演のステラン・スカルスガルドといえばムスキエティ版「IT」シリーズのペニーワイズを始め、今ハリウッドで引っ張りダコのビル・スカルスガルドの父にしてスウェーデンが誇る世界的名俳優。

出演作を挙げればキリがないが、最近の僕のお気に入りはその演技力でドラマに圧倒的な厚みを持たせた「キャシアン・アンドー」のルーセン・レイエスだ。

ちなみに抗争を起こすギャングの片方のボスは「総統はお怒りのようです」シリーズで誰もが知る「ヒトラー 最後の十二日間」のブルーノ・ガンツだ。

 

なんか人間離れした迫力のおっさんか普通の気のいいおっさん役が多く、アクションの印象がないステラン・スカルスガルドが復讐に燃えて人を殺しまくるお父さんを演じるそのギャップがいいのだが、誰か死ぬ度に黒味の画面にそいつの名前と宗派がテロップで表示され、美しい音楽が流れる演出が死ぬほど面白い。

血で血を洗う復讐劇なのに、どこかシュールでシリアスに感じないユーモアのセンスがある。

タイトルは怒りの除雪車なのだが、いわゆる「怒りの除雪車」感はない。

怒ってるし除雪車に乗っているが、このタイトルと画像で我々が想像し期待しうる除雪車の使い方はしてない。

 

後半はまあまあエモいのでマジでこのタイトルとパッケージにした理由はあまりわからない。(でもそれに釣られて見たのは事実なので何も言えませんわ)

とはいえ、貼り付けた海外版予告はやや怒りの除雪車感も出てるのであながち間違いではない・・・?

いやでも別にそんな映画ではなかった・・・

 

ハリウッドならリーアム・ニーソンだなと思って見たらその1週間後にハリウッドリメイクがリーアム主演で決まったという衝撃の思い出もある。

「スノーロワイヤル」というタイトルで公開されたその映画は、モランド監督自らメガホンでセルフリメイクという珍しいスタイル。

セリフも編集のリズムもほとんどおなじで、ギャングの片方がネイティブアメリカンの麻薬組織になったり警察陣営も加えた四つ巴の物語にパワーアップを見せたが、リーアムがこのお父さん役をやっても普通にいつもの強父リーアムという感じで微妙だったというのが正直な印象。

ステラン・スカルスガルドだから不気味でよかったんだな、きっと。

でも監督も違ってたらもっと微妙だったと思う。

このクセのある面白さはモランド監督にしか出せない無二の雰囲気だ。

リメイク版の方が見つけやすいと思うが、興味があればぜひオリジナル版も見てほしい。