作品情報
原題:Nope
監督:ジョーダン・ピール
出演:ダニエル・カルーヤ/キキ・パーマー/ブランドン・ペレア/マイケル・ウィンコット/スティーブン・ユアン/キース・デビッド
制作国:アメリカ
上映時間:131分
配給:東宝東和
年齢制限: G
あらすじ
ロサンゼルス近郊で映画やテレビに出演する馬を調教する牧場を営むヘイウッド家は、半年前に空から異物が降り注いぐ怪現象で父を亡くしている。長男のOJに経営センスはなく妹のエメラルドは家業もせずに動画配信に明け暮れ、牧場は破産の危機に。やがて再び怪現象に見舞われたOJと妹のエメラルドは、怪現象が起こる度に姿を見せる謎の飛行物体を撮影した「バズり動画」で一発逆転を狙うことを思いつく。プロのカメラマンにも声をかけその姿をカメラに収めようとするが、そんな彼らの想像を絶する事態が待ち受けていた。
衝撃の路線変更?ジョーダン・ピールのオタクっぷりが大爆発したまさかの胸アツ展開が待つ怪作
ジョーダン・ピール監督について僕は「ゲット・アウト」「アス」といった社会派ホラーで評価と名声を確立してきた真面目な作家、という印象を持っていた。
この映画を観るまでは。
見るものと見られるもの、見てはいけないもの、見て見ぬふりをしてきたもの。
落ちぶれた元人気子役のサブプロットをはじめ、様々な形の挿話を用いていつもの社会派な側面も見せるが、彼が今回撮りたかったのはどうも「ガチでUFOが怖い映画」だったらしい。
その溢れる映画オタクとしての熱量をまず感じるのは主人公たち。
一家は映画などで芝居をする馬の調教を生業にしているが、兄のOJには経営センスがなく妹のエメラルドは仕事もせずにYoutuberに明け暮れる。
社交的な妹はエドワード・マイブリッジによる「動く馬と黒人騎手」の連続写真を史上初の映画だとし、自らをその黒人の末裔と謳う。
ハリウッド映画の歴史は黒人から始まったが隠匿され続けてきたと。
もうすでになんか強火。
前半はまるで「ジョーズ」のような見えない恐怖との戦いが中心だが、一口に「恐怖」といっても形は様々である。
怖いのはUFOか、人か、猿か、ジャンプスケア演出か、それとも不穏な雰囲気か、同じ「ホラー」という括りの中でもジャンルをスライドしまくる。
そんな様々な「ホラー」を堪能したかと思えば、UFOとの直接対決を迎える後半はもはや怪獣映画とも言うべきジャンルの転換を見せる。
やってることはほとんどタランティーノやシャマランのそれ(ていうか本気でシャマラン枠狙ってない?)。
だが、ここまでジャンルごった煮の映画(あとアニメへの)愛が溢れるオタクっぷりを全面に押し出しているのに、それが雑なパロディやオマージュになっていない。
「本当のどぎついオタクはパロディなんてやらずに、そのまんまオリジナルを自分の手で再現しようとする」
という僕の持論から言えば、真面目系監督だと思っていたジョーダン・ピールが実は庵野秀明やタランティーノ、シャマランと同類の人間だったという衝撃の事実がこの映画で明らかになってしまったのです。
随所で用いられる西部劇の作法がやたら丁寧だったり、突如熱い展開に見舞われる撮影監督のおっさんとかも良すぎて笑ってしまった。
ハリウッド映画史の批判的再構築や社会派ドラマを加えつつここまでピュアに「オタク映画」をやるのは流石に盛りすぎ感もあるので「何が言いたい映画なの?」と評価を下げられても仕方がないと思うのだが、映画好きとしては愛着を持たずにはいられない。
どう受け取っていいのかわからない、なんだかよくわからないと感じた人の気持ちもよくわかるが、ここは一旦過去のジョーダン・ピール作品のことは忘れて、流れに身を任せて感じるがままに楽しめば良いと思われる。
フィルムでもスマホでもとにかく「撮る」ことに熱い人々の姿。
映画やアニメにまつわるネタがきちんと意味を持って挿入され、ただのパロディやオマージュとして消化されるだけで終わらず、最終的には映像の力、映画の力を心の底から信じてやまないことが作品の全てから伝わってくる奇妙な感動に包まれる。(ある意味ピール版「フェイブルマンズ」・・・?)
そして映画が終わり興奮も引いてきた頃、随所に挟まれたピール節とも呼べるメッセージに込められた意味を振り返り細かいあれこれに思いを巡らせる。
本筋と挿話にもきちんと通じるテーマがあって綿密に構成されていることには落ち着いてから気づく。
史上最も野心的なピール作品でありながらいつものピール作品的楽しみ方もできる、一粒で二度美味しい衝撃の傑作。
技巧と力技が絶妙に同居した凄まじい馬力の映画だが、クオリティが別次元すぎるせいでいまいち評価が伸びてない印象がある。
人類には早すぎたか。
かく言う僕もこんなに面白い映画だと思ってなかったので、勤め先でなんとなく観てしまった。
「インターステラー」「ダンケルク」「TENET」のホイテ・ヴァン・ホイテマがダイナミックな映像をカメラに納めて、音響効果の演出もこんなにハイレベルだって知ってたら公式おすすめのIMAXで観たのに。
グラシネはリバイバルしてくれ。頼むよ・・・