作品情報
原題:Rocky Ⅳ: Rocky Vs. Drago
出演:シルヴェスター・スタローン/ドルフ・ラングレン/タリア・シャイア/カール・ウェザース/ブリジット・ニールセン/バート・ヤング
制作国:アメリカ
上映時間:94分
配給:カルチャヴィル、ガイエ
年齢制限: G
あらすじ
1985年に製作された「ロッキー4 炎の友情」をスタローン自らが再構築した再編集特別版。王者アポロ・クリードとの戦いを経て世界チャンピオンとなったロッキー・バルボアの前に、ソ連で"殺人マシーン"の異名を持つアマチュアボクサー、イワン・ドラゴが現れる。引退後も湧き上がる闘争本能に駆り立てられるアポロはロッキーに代わりドラゴとの試合を行うが、激戦の果てに命を落とす。ライバルであり親友を失ったロッキーは、対決のためソ連へと旅立つ。
公開から40年経った映画を現在のセンスで作り直すとどうなるのかという映画史に残る興味深い実験、そして傑作へ
コロナ禍で時間を持て余したスタローンは、本気で作り直した「ロッキー4」についてこう語った。
「80年代のトレンドを狙いすぎた部分を直してドラマの中身に重点をおきたかった。登場人物の心に注目して、より感情的に、より責任感を持たせた。当時の俺は何を考えていたんだと凹むこともあったよ。監督としての自分に自信がなく、流行に流されて表面的な安っぽさに夢中になっていた。当時の自分の人生観に疑問を持ったよ。前の「ロッキー4」を作った頃の俺は薄っぺらだった。俺はこの再編集版を上映することでこの作品の汚名を返上し、"これは正当なドラマだ"と言わせたい。ただのバカバカしいモンタージュじゃない、と言いたいんだ。」
そんな自分をボロクソに言わんでも...と思ったが、なんかもうこの言葉だけで「ロッキー」だよね。
確かに僕の中でも「ロッキー4」は大事なところだけ見れば1時間くらいで見れるという評価だった。
いやまあ大好きなんだが、リピ率は1、2、ファイナルに比べると確かに少ない。
物語に宿る魂は理解しているが、映画監督としてのスタローンが拙かったのは色々言われる「ロッキー5」と比べても明らかだ。(やっぱジョン・G・アヴィルドセンの方が映画としてはいいものを作る)
さて、「ロッキー・ザ・ファイナル」を経たスタローンが「ロッキー4」を作り直すとどうなるのか。
本編は91分から94分で微増程度だが、今回初めて使用する未公開シーンの総尺は42分。
三分の一からほとんど半分のシーンを当時のスタローンが使わなかった映像に差し替えたというのだ。
映像は4Kリマスターで画角がビスタからシネスコに変更、音響も5.1chサラウンドにしたとスタローンは言う。
ここからはネタバレ気にせず細かく書いていこうと思う。
まず、ロボットのシーンは全削除。
特にOPの「ロッキー3」をおさらいする冒頭をアポロ中心に再構成し前半をアポロ、後半をロッキーの物語とした改変が二人の友情を5分で理解させる見事な編集で大変素晴らしい。
そこからアポロが死ぬまでは、知らない人が見たら彼が主人公かと思うほどアポロが軸になっている。
アポロがあそこまで試合に固執した理由がより鮮明で、共感できる話し運びに作れているのだ。
その後も一見同じだが、よく見ると見覚えのあるシーンが微妙に消えていたり、コンマ秒で切り詰めテンポアップを図っており、編集で映画を現代的にアップデートできることを実感した。
中盤に差し掛かり驚いたのは、家を飛び出したロッキーが車で走り思いを巡らせるシーン。
"No Easy Way Out"に合わせて過去のシリーズを回想するモンタージュパートで、40分も映像差し替えてるのなら真っ先にカットされるのではないかと思っていた。
しかしなんということでしょう、このシーン自体は何も手を加えていないのに、その前のアポロの葬儀シーンで「デュークのスピーチと涙ながらにアポロに感謝するロッキー」の未公開映像が追加されることによって、このモンタージュがしっかり活きるシーンとして数倍バワーアップしているのだ。
驚きというか感動というか、スタローンの監督としての円熟を感じる。
本人も言っていたが、このシーンを切った40年前のスタローンは何を考えていたんだと言わざるを得なくてワロタ。
他にもたくさんあるが、クライマックスのロッキーのスピーチシーンでの改変がオープニングと同じくらいとにかく最高。
オリジナルではソ連の首脳陣が感動しスタンディングオベーション、ソ連国民も拍手喝采のハッピーエンドだったこのシーンが、再編集版では「ロッキーに熱狂する国民の万雷の拍手の中、不服そうに足速に立ち去るソ連首脳陣」というシーンに変えられている。
昔から国境を超えた理解を描いていたはずなのに正義のアメリカが悪のソ連を正す構図になっていることに違和感を抱いていた僕にとって、このシーンの改変はまさに思い描いていた理想だった。
現在進行形でロシアが他国に戦争を仕掛けていたのは偶然かもしれないが、偶然にも85年のロッキーのセリフが今のロシアにブッ刺さるミラクルも起きているし、何よりちゃんとそういうパターンも撮っていたスタローンは偉い。
エンドロールの選曲センスも「ロッキー・ザ・ファイナル」で魅せたスタローンの再来で激アツ。
映画館であのエンドロールを全身に浴びられた感動、座席から見た景色を僕はまだ昨日のことのように覚えている。
同じ素材でも編集次第で映画に現代性を持たせることができる貴重な実験結果としても◎。
残して欲しかったシーンもあるにはあるのでどちらの方が良いという言い方もあまりしたくはないが、総合的にこれもまた素晴らしいロッキー映画であることは間違いない。
この年は「トップガン マーヴェリック」が純度の高いエンタメ映画として大暴れし、80'sのノリで作られた映画が再評価される流れが来ていたところに「本物」が出てきた。(2022年は特異点かな?)
この時代の映画からしか摂取できない栄養素、大事にしていきたい。
〈余談〉
僕の映画人生のターニングポイントのひとつは、間違いなく中学生の頃のロッキーとの出会いだ。
彼の生き様やネバーギブアップの精神に感化され、いい人間として生きようと思ったし、見るものがなくてテレビが開いてる時はずっとロッキーのどれかを見ていたし、なんなら十数年たった今もそんな生活を送っているくらい人生のバイブルだ。
そして映画館で働き始めた僕の夢はもちろん「ロッキー」を映画館で見ること。
「クリード」シリーズでその夢は半分叶ったが、午前十時の映画祭はいつまで経っても「ロッキー」をやらないし、旧作の企画上映の声も聞かない。
そんな時に聞こえてきたコロナ禍で時間のできたスタローンが「ロッキー4」を作り直すという耳を疑うニュース。
映画館はコロナで売上7割減という地獄を見たので口が裂けても「コロナのおかげで」とは言いたくないが、これも何かの因果なのだろうか。
しかもアメリカでは一夜限りのイベント上映だったのが、日本ではしっかり劇場公開。
とりあえず僕の夢は一部叶いましたが、他のシリーズを観るまでがんばるぞ。