ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」(2023)

作品情報

原題:The Super Mario Bros. Movie

監督:アーロン・ホーバス/マイケル・ジェレニック

出演:クリス・プラット/アニャ・テイラー=ジョイ/チャーリー・デイジャック・ブラックキーガン=マイケル・キーセス・ローゲン

制作国:アメリカ・日本合作

上映時間:92分

配給:東宝東和

年齢制限: G

あらすじ

ニューヨークで配管工を営む双子の兄弟マリオとルイージは、謎の土管を通じて不思議な世界へ迷い込む。はなればなれになった二人は、絆の力で世界の危機に立ち向かう。

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大衆向け娯楽映画のお手本

世界で記録的大ヒットを飛ばし、早くも歴史になろうとしている日本が誇る世界のアイコン「マリオ」待望のアニメーション映画。

批評家からはボロクソに叩かれているが観客からは絶賛され、既にアニメーション映画としては記録的な興行記録を打ち立て、実写を含めても興行収入ランキングの上位に食い込むことが期待されている。

確かに見た後に「マリオの映画だったなぁ」という以外に何も残らない。

だがそこがいい。

ほとんど映画というよりも任天堂のアトラクションムービーと呼ぶべきか。

批評家に嫌われるのも納得である。

 

しかし、蓋を開けてみれば世界で既に1000億ドルを稼ぎ、日本でも(僕は60〜80億円くらいは期待していたのだが)本気で100億円洋画を目指せるロケットスタートを切った本作。

劇場側としてもかなり期待している作品なので、これのお話を書きたいと思う。

 

まさに理想の「何もない映画」

いきなりヘイトかよ!と思わないでほしい。

確かに批評家の言う通り、映画にあまり中身はない。

強いメッセージや人の価値観を逆転させる様な何かを提示するわけでもない。

批評で食う人には毒にも薬にもならなくて困った映画なのかもしれないが、いま世の中が求めている映画は「何もない映画」だと僕は思っている。

僕は映画を観て人生が変わった人間だし、今も映画を観るたびに大小問わずそれなりに影響を受け続けている自覚がある。

そういう意味では、本当に「な〜んにもない映画」というのは存在しないと思うので、ここでいう「何もない映画」という言葉はあまり強く気にしないでください。

 

この映画のストーリーは至極シンプル。

不思議な世界に迷い込んで離れ離れになった兄弟が再会を目指して冒険し、巨悪を倒して世界を救う、というものだ。

そこには最近の映画の流行りを意識した目配せ的記号はほとんどない。

ピーチ姫がヒロインじゃないとか、シュレックのフィオナ姫とアナ雪のエルサを合わせたみたいな武闘派なども言われているが、正直そんなに気にならなかったし普通にサッパリしててめちゃくちゃ可愛いキャラクターだったので何の問題もない。

だが、映画らしいダイナミズム溢れる映像の作り方が巧みだし、大小さまざまなゲームオマージュを散りばめた画面も楽しい。

 

映画業界でここ10年勢いを感じたムーブメントはコミックヒーローを題材にした映画と、いわゆるポリコレを意識した映画で間違いないだろう。(後者に関してはムーブメントで終わらせてはいけないと思うし、昨今は自然に取り込まれて押し付けがましくない映画が増えてきたようにも感じる)

最近はこういった映画に対する観客の「疲れ」を感じていて、何も考えずに観て終わった後に残る気持ちは「楽しさ」が大部分を占める様な映画がバズる時代への揺り戻しが起きていると思う。

最近だと「ダンジョンズ&ドラゴンズ」や「RRR」(個人的にはかなり思想強い映画だとも思うが)トップガン マーヴェリック」などがそれに当てはまると考えていて、本作もその流れにあると感じているのだ。

 

マリオブランドの計り知れない力

最低限のストーリーに自社ゲームの世界観をハメたシーンを繋げれば、小細工がなくても90分ずっと楽しい映画になるマリオIPの強さを見せつけられた。

マリオゲームのジャンルは2D3Dアクション、レース、パーティ、ゴルフと多岐に渡り、他にも挙げたらキリがないが、観客から「映画なのにそのまんまマリオすぎてすげえ!!」と大絶賛されている。

これだけ多ジャンルで世界観もそれぞれ異なるゲームのイメージを一本の映画にまとめるという、とてつもないことをこの映画製作陣はさらっとやってのけているのだ。(観客が気づかないほど自然に)

これもイルミネーションの末恐ろしいところである。

 

その選曲誰の趣味!?

本作の音楽を手掛けたのはブライアン・タイラー

コンスタンティン」「アイアンマン3」「ワイルド・スピード」シリーズなど、ゲームでは「アサシン クリード4 ブラック フラッグ」などを手掛けた有名なコンポーザーだ。

僕はマリオの音楽を映画館で聴けるのが楽しみだったので、彼の壮大なアレンジ曲や8bitsの原曲を存分に堪能できて満足だった。

意外だったのは懐かしの名曲たちが「大量に使用されていた」ことだ。

 

a-ha - Take On Me (Official Video) [Remastered in 4K] - YouTube

Bonnie Tyler - Holding Out For A Hero (Official HD Video) - YouTube

AC/DC - Thunderstruck (Official Video) - YouTube

Electric Light Orchestra - Mr. Blue Sky (Official Video) - YouTube

 

率直に言って「僕と同じような映画ばっか観てる人なのかな」という感じである。

マリオ初期世代に刺さる楽曲を選んだ結果なのかもしれないが、いずれも「ここ数年の映画の見せ場シーンで聞いたこと曲」という共通点がある。

どれもその映画を思い出すほど印象深いが、見せ場でバチンと流す一曲を90分で贅沢にも4曲使う欲張りっぷり。(冒頭のタランティーノリスペクトも熱い)

 

というかマリカーシーンの「MAD MAX」っぷりなど、映画のマリオ以外の部分はかなりボンクラ映画濃度がかなり高い。

マリオ好きや子どもだけでなく最近流行りの洋画を観ているそうにもしっかりアプローチしようとした結果なのかもしれない。

 

まとめ

ただ純粋に、マリオのゲームで遊ぶようにマリオの世界を楽しむことができる映画である。

さらにいえばゲームをやらなくても、マリオというキャラさえ知っていれば大体の人は楽しむことができる、全方位に強い仕上がりなのでこの興収記録も納得だ。

シンプルすぎて叩かれもするストーリーだが、マリオやその仲間たちに余計なイメージがつかない様にあえて味付けは控えめにしたのかもしれない。

物語の軸には万人が共感できる兄弟愛やアドベンチャーがあり、圧巻のアニメーション映像を支えている。

それで十分面白い。

洋画好きにもウケる要素はたくさんあり、特にマリオたちがブルックリンの地下から異世界に行くシーンは「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」フォロワーとしては感動すら覚えた。

 

ディズニーは劇場公開を見送るなど迷走しつつもしっかりクオリティの高い作品を残してはいるが、大衆向けの娯楽作品は完全にイルミネーションの一強時代だ。

近年のその傾向をマリオが決定づけたとも言えるだろう。

 

幅広い層の継続的な来場で、久々の洋画100億円選手となることに多大な期待を寄せている。

 

 

 

〈余談〉

ところでクッパの牢屋にいた赤ちゃんの声で「死は救済」を説き続ける水色の生物は誰????

マリオのキャラなの?????

ちょっと怖いんだけど、残機があればコンティニューできる事を皮肉ったジョークなのかな?

ペンギンたちの反応も含め、本当に面白いキャラクターだった。

こういうのを入れる余裕もイルミネーションよね。

 

クッパの悪役としての格の高さも振り切ってて良かったし、フィオナ姫とエルサを足した様な王の器がデカすぎるピーチ姫も良き。

マリオの「諦めが悪い」性格もゲーム的コンティニューシステムに準えてるのかな。

 

イルミネーションの解釈が好きすぎるのでクリス・メレダンドリと任天堂の今後のコラボにも期待。