作品情報
原題:Zack Snyder's Justice League
監督:ザック・スナイダー
出演:ベン・アフレック/ヘンリー・カヴィル/エイミー・アダムス/ガル・ガドット/レイ・フィッシャー/ジェイソン・モモア/エズラ・ミラー/ウィレム・デフォー/ジェシー・アイゼンバーグ/ジェレミー・アイアンズ/ダイアン・レイン/コニー・ニールセン/J・K・シモンズ/キアラン・ハインズ/ジャレット・レト
制作国:アメリカ
上映時間:241分
あらすじ
世界を破滅させる陰謀が動き出していることを知ったバットマンはスーパーマンの犠牲を無駄にしてはいけないと考え、ワンダーウーマンと協力し世界各地から超人を集めたチームを作ることを決意する。個性的なヒーローたちはそれぞれ辛い過去と苦悩を抱えながらもチームとして次第にひとつになっていく。
悲願が成就したファンは新たな悲しみに抗いながら前に進む
2017年11月に公開された「ジャスティス・リーグ」は、「マン・オブ・スティール」(2013)「バットマンvsスーパーマン」(2016)に次ぐザック・スナイダーのDCコミックスヒーロー映画三部作の集大成。
同年8月に公開された「ワンダーウーマン」らDCを代表するヒーローも集結した、ワーナー待望のヒーロー集結映画。
マーベルで言うところの「アベンジャーズ」がこのジャスティス・リーグというチームだ。
しかし、公開まであと半年というところの2017年5月、娘の自殺という痛ましい出来事からシリーズを支えてきたザック・スナイダー監督が降板。
自身の精神状況的にこれ以上の製作は困難と考え、「アベンジャーズ」「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」を手掛けたジョス・ウェドンを後任に現場を去った。
ヒーロー集結映画の歴史を変えた映画を監督した男はこの上ない代役に思われたのだが、いざ映画が公開されるとザック・スナイダーの初期構想とは全く異なる映画になっており、評価も興行も相当微妙な数字に終わった。
僕の見方としては、飛ぶ鳥を落とす勢いだった当時のマーベルに対して、DCは伸び悩んでいた。
ヒーロー映画の歴史を変え映画史に名を刻んだ「ダークナイト」に続けと企画が立てられたが、そこから数年だったあの頃のトレンドはノーランやスナイダーの重厚なトーンよりもマーベルのような明るい映画が求められるようになっていた。
僕はザック・スナイダーも「MoS」も「BvS」も大好きだが、流行りには乗れていなかったと感じている。
そんな中でパティ・ジェンキンスの「ワンダーウーマン」が明るいトーンのDCへとやや方向転換を見せ、「ジャスティス・リーグ」がスナイダー作品とは思えない画面になったのもそれにならったのかと理解はしたが、やはり求めてるものとは違ったので売れなかったのも仕方がなかった。
その後は世界観を共有しつつもマーベルのように緊密には絡まない「アクアマン」や「シャザム」「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒」などが公開され、フラッシュを主人公にした「ザ・フラッシュ」は何度も製作が噂されながらユニバースの瞑想やキャストのスキャンダル、コロナなどで紆余曲折あり、発表からかなりの時間を要したがいよいよ来週公開となる。
さて、この「ザック・スナイダーカット」とは業界内外でその存在が半ば都市伝説になっていた「ジャスティス・リーグ」のディレクターズカット版だ。
監督の降板や興行的な失敗、その後のゴタゴタなどを考えれば公開は絶望的、というかほぼあり得なかった。
しかし2020年5月、突如として幻のディレクターズカット版が配信でリリースされると報道があり、ワーナーも異例の追加資金を数十億円投入したらしい。
そして避けて通れない話題が、公開決定後にキャストたちから後任になったジョス・ウェドン監督への告発とも取れる発言が相次いだことだ。
レイ・フィッシャーは「あいつは下劣で虐待的だった」「公開当時に彼を褒めた発言は全て撤回する」などと述べ、ベン・アフレックは「キャリア史上最悪の経験。あまりに劣悪で心が折れ、酒浸りになりホテルの窓から飛び降りたくなった。映画制作でやってはいけないことの全てが詰まっていてセミナーが開ける」と「AIR/エア」のプロモで語った。
ワンダーウーマンのガル・ガドットは「お前のキャリアを惨めにしてやる。私が脚本を変えればワンダーウーマンを馬鹿な女にもできる」と言われたらしい。
実際、スナイダーカットには劇場版でカットされていたワンダーウーマンの印象的なセリフがたくさんある。
僕が好きなのは冒頭の銀行のシーンの違いはこうだ。
劇場版:ワンダーウーマンが強盗を制圧し強さを見せつける
スナイダーカット版:劇場版と同じ映像だが助けた女の子に「大丈夫?プリンセス」と話しかけ、「私もあなたみたいになれる?」という問いに「あなたは何にでもなれる」と答える
他にも悪役の戦闘狂ステッペンウルフとの戦いで「俺の獲物だ!」というセリフに「私は誰の物でもない!」と返すシーンがあり、スナイダーはワンダーウーマンというキャラを女児や女性のエンパワメントにしっかり活かせていた。
正直ジョス・ウェドンのアベンジャーズシリーズでのブラック・ウィドウの扱いからやや怪しさは感じていたし、2018年に降板した「バットガール」が本当に制作されていたらどうなっていたことか・・・
ベン・アフレックのバットマン単独映画も期待していたが、彼はもうヒーロー映画に嫌気がさしてしまったらしい。
スナイダーカットの再撮影でザックと再開したことは救いになったというが、現在のジェームズ・ガン主導に変わったDCでもバットマンの再演や何かしらの監督をすることにも興味がないと明言している。
まあ、その結果として親友マット・デイモンと会社を立ち上げ「AIR/エア」のような作品を作ってくれたのだから、これも運や巡り合わせだろう。
スナイダーカットは劇場公開作品ではないという理由もあるだろうが、劇場公開版の2倍以上である241分の超長尺映画になっている。
ザック・スナイダーのビジョンをもとにしたデザイン、神話的ビジュアル、当時まだオリジンが描かれていないキャラのバックボーンも丁寧に描き、それぞれの映画の脇役もほとんど全て登場。
映画2本分の尺になりもはや全く別の映画になった脅威の超大作だ。
全編IMAX画角(というかもはやスタンダードサイズ映画?)でたっぷり4時間「MoS」「BvS」に続く一貫した親子の物語、その集大成を見られる幸せ。
カットされていたジャレット・レトのジョーカー、バットマンの悪夢の続き、あらゆるものが見られて本当に大満足だった。
劇場公開版では登場シーンが全てカットされたステッペンウルフの上位存在ダークサイドら、迫り来る脅威の全貌も明かされ、世界一金のかかった「ククク...奴は四天王の中でも最弱」「俺たちの戦いはこれからだ!」展開が見られる。
そして何より、これだけ面白い重厚な映画を見せられ、壮大なサーガが始まることを明示した終わり方なのにもうこの続きが作られないことが確定している悲劇。
めちゃくちゃ面白いものを見せるだけ見せて続きは無いよという生殺し。
あまりにも辛い。
悲しく辛い気持ちはごまかせないが完成した姿を見られたことがまず奇跡。
亡くなった娘に捧げられたエンドロールを見て、この映画の完成はファンたち、そしてスナイダー本人が前に進むために必要な通過儀礼だったようにも感じた。
画面から何故かザックの雰囲気を感じるアンディ・ムスキエティ監督の「ザ・フラッシュ」はどんな内容になっているのか。
噂によるとザック・スナイダーとジェームズ・ガンのDCを橋渡しする内容だとか。
バートン版バットマンのファンとしてはマイケル・キートンのバットマン再演が熱いが、スナイダーシリーズファン的にはこの映画にもベン・アフレックは出てくれているし、ザックがいないDCに興味はないと再演拒否していたマイケル・シャノンがゾッド将軍を再演しているのも胸アツポイント。
来週が待ちきれない。