作品情報
原題:雄獅少年 I Am What I Am
監督:ソン・ハイペン
出演:花江夏樹/桜田ひより/山口勝平/落合福嗣/山寺宏一/甲斐田裕子
制作国:中国
上映時間:104分
配給:ギャガ、泰閣映畫、面白映画、Open Culture Entertainment
年齢制限:G
あらすじ
出稼ぎに行った両親の帰りを待つ少年チュンは、獅子舞競技で屈強な男を倒した自分と同じ名前の少女から獅子頭を譲り受ける。チュンは獅子舞バトル競技大会に参加するため、お調子者のマオ、食いしん坊のワン公と共に飲んだくれの元獅子舞選手チアンに弟子入りする。昔は町一番の獅子舞の踊り手だったチアンと妻のアジェンのもとで3人は猛特訓に励み、獅子舞の演者として成長していく。
獅子舞を通して描かれる成長と奇跡、そして現実的な物語が深い感動へ
最近、中国アニメの上映が日本の映画館で相次いでいる。
僕の働く映画館でも上映しているが、この手の作品が全国規模で公開されるようになるとは、時代の変化を感じる。
おそらく「羅小黒戦記」の記録的大ヒットを受けて日本に市場価値があることに気づいたのだろうか。
配給の「面白映画」は中国コンテンツを日本で展開する会社で、昨年から池袋グランドシネマサンシャインで毎週中国アニメを一本上映する「電影祭」を主催。
「兵馬俑の城」「マスターオブスキル」など最近イオンシネマなどで中国映画の公開が相次いでいるのもこの会社が頑張っているかららしい。
本作は、昨年「雄獅少年 少年とそらに舞う獅子」の邦題で字幕版が上映され好評を博したことから、新たに日本語吹替版を制作し再度公開された中国アニメーション映画だ。
CGは欧米の超絶リッチな作品とはまた違う色彩や光の質感が美しい。
ケレン味あるカンフーアクションを取り込んだ獅子舞の舞踊は香港映画好きとしてはいくらでも見たことあるはずなのに、胸が躍った。
流石にあの速度で杭の上を獅子舞被って走り回るのはアニメ表現だろうと思って調べたら、実写であれくらいのことをやってる映像がたくさん出てきて「中国獅子舞すげえええええええええ」と驚いてしまった。
中国映画あるあるのナンセンスギャグと壮絶なイジメ描写(当人たちは割とギャグのテンションでやってる感じ)は、どこか「少林サッカー」を彷彿とさせた。(チャウ・シンチーは中国映画界を変えましたね)
そういった要素は面白いとは思う反面そんなに好みでもないし、まるでアメリカで作られたようなコテコテのつり目サル顔キャラデザがどうにも好みでないのだが、途中からそれを差し引いてもプラスの要素が上回るくらい映画の随所が素晴らしい。
そんな映画の物語はというと、貧しくひ弱でバカにされて生きてきた少年が獅子舞に打ち込み、師匠や仲間たちとの絆で成長していく王道の展開だ。
予告編ではスポコン展開→父が重傷→踏みつけられるために生きてるんじゃない!のよく見る流れで正直「あぁ〜まあ見なくてもいいか」と思ったのだが、実はそんな浅い映画ではない。
王道スポコン映画でありながら、その背景には現代中国社会の格差問題があり、ただの綺麗事では終わらない。
怪我をした家族の代わりに広州へ出稼ぎに行き、辛い労働の後は床で寝る日々。
急激な経済発展を遂げた中国の栄光の影にある出稼ぎ労働者たちの現実を包み隠さず描く後半からのハードモードな展開に胸が痛くなるが、みんな挫けそうになりながらも歯を食いしばり、感情を爆発させて困難に立ち向かっていく。
それでいて社会派作品を気取らず、あくまでも夢を持つ事の素晴らしさや努力は裏切らないというポジティブなメッセージに現実的な社会問題を上手に取り込むことで、熱血スポ根展開が起こす奇跡の物語を補強する脚本の構成が普通に上手くて驚いた。
物語とアニメーションにトップスピードで感情が乗り、手に汗握って主人公たちを応援したくなる弱者たちの生命力に溢れたパワフルな胸アツ映画。
日本やアメリカのアニメーションから様々な影響を受け、吸収したものにオリジナリティを加えた中国独自のアニメーションを作り出すフェーズにどうやら入ったようだ。
「羅小黒戦記」とは全く違ったベクトルだが、この方向でも中国アニメの勢いと将来性を感じずにはいられない。
「太鼓の音が心の中で鳴り響いている限り、僕たちはずっと獅子だ!」