作品情報
監督:西川美和
出演:役所広司/仲野太賀/六角精児/北村有起哉/白龍/キムラ緑子/長澤まさみ/橋爪功
制作国:日本
上映時間:126分
配給:ワーナー・ブラザース映画
年齢制限:G
あらすじ
下町で暮らす短期な性格の三上は、強面の外見とは裏腹に困っている人を放っておけない優しい一面も持っていた。過去に殺人を犯し13年の刑期を終えた三上は身元引受人の弁護士・庄司らの助けを借りながら自立を目指していた。そんなある日、三上に若手テレビディレクターの津乃田とプロデューサーの吉澤が近づいてくる。彼らは社会に適応しようとあがきながら、生き別れた母親を探す三上の姿を感動ドキュメンタリーに仕立て上げようと考えていた。
皮肉のようなタイトルから世の中も捨てたもんじゃないと思わせられる見事な構成
世界と戦える日本人監督の一人、西川美和が初の原作ものでワーナーと組んでも全くブレないクオリティを見せた作品。
常識や教養を積む機会もなく育ち、老年に達した元ヤクザの難しい社会復帰の様子を通して、弱者やドロップアウトした者の厳しい現実を描いている。
手を差し伸べる周囲の人々も自分の立場や時間、考え方があって主人公のためだけに生きてるわけではない描写がリアリティある。
そしてこれだけ深刻な題材の映画なのに、軽やかで微笑ましいコミカルな日常系的描写で見せてくれ、そのギャップにやられて最後には大きな感動が待っている。
人生いい加減でいいところはそうしていかないと行き詰まって死んでしまう。
だけど、忘れちゃいけない大切なこともあるのだと感覚で理解した。
役所広司の優しさ、可愛さ、凶暴性すべてを併せ持った見事なお芝居。
気のいいおじさんだけどキレたらやばい、突発的な感情の発露の切り替えは役者という仕事のお手本。
先日カンヌを制してついに評価が形になった世界で通用する名俳優だ。
脇を固める六角精児や太賀も素晴らしい。
セカンドチャンスやスタート地点に立つことすら許されない人間と社会の格差、摩擦のあり方。
安易に白黒つけず、しかしコミカルに、説明セリフなく自然と教訓が組み込まれ最後はいいものを観たというカタルシスも生まれる見事な脚本も書ける西川監督は本当に素晴らしいと思う。
希望を感じる余韻に浸る鑑賞後の時間が一段と気持ちのいい名作枠だ。
映画監督は年に数本撮るタイプと数年かけて一本取るタイプに別れているが、西川美和監督はハッキリと後者。
以前インタビューで「映画では食えないのでバイトをしている」と発言して大いに話題になった。(と言っても西川監督の場合は執筆やCMといった本業に近い副業だが)
僕は西川監督の数年かけて練り上げた映画を定期的なイベントのように楽しみにしている。
次回作は再来年ごろだろうか。
今から待ち遠しい。