ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

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映画「夕陽のガンマン(ドル三部作 4K)」(2024)

作品情報

原題:Per qualche dollaro in meno

監督:セルジオ・レオーネ

出演:クリント・イーストウッドリー・ヴァン・クリーフジャン・マリア・ヴォロンテ/マーク・クルップ/ルイジ・ピスティッリ/クラウス・キンスキー/ヨゼフ・エッガー

音楽:エンニオ・モリコーネ

制作国:イタリア・スペイン・西ドイツ合作

上映時間:132分

配給:アーク・フィルムズ

年齢制限: G

あらすじ

凶悪犯エル・インディオが脱獄し、1万ドルの賞金が懸けられた。インディオ一味を追う若き賞金稼ぎのモンコと、同じくインディオを狙うモーティマー大佐。二人は一味の賞金を山分けすることを条件に手を組み、反発し合いながらも次第に絆を深めていくが、大佐にはある別の目的があった。

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男同士の友情でこれ以上に胸が熱くなる映画を僕は知らない

アークフィルムズ曰く、「夕陽のガンマン」は誰が観ても傑作という。

これは言い得て妙である。

「用心棒」と比較されがちな「荒野の用心棒」や、めちゃくちゃ面白いのは間違いないが長さが一段ハードルを上げてしまっている「続・夕陽のガンマン」に比べて「夕陽のガンマン」は何かと過小評価されがちに感じている。

だがむしろ、この作品は非常にバランスがいい。

男同士の友情とカッコよさの限界を極めた最高のクライマックスとハッピーエンドが2時間ちょいの尺で味わえる。

この三部作の中では最も肌馴染みがいい作品になりやすいと言っても良いだろう。

 

本作のイーストウッドは前作「荒野の用心棒」に比較してもカッコ良さに磨きがかかっている。

皮の籠手をつけた右手から無敵の早撃ちを繰り出し、銃を抜く以外のことは全て左手でこなす。

こんなん中学生の頃に出会ってしまったら終わりです。

 

そんなイーストウッドのライバルにして本作の真の主人公モーティマー大佐を演じるリー・ヴァン・クリーフ

怪我で映画の仕事から退いていたクリーフだったが、カムバックでお出しできるクオリティじゃないカッコ良さ。

射撃の名手というキャラクターにこの上ない説得力を与える鋭い眼光。

ゆったりと少ない動きから繰り出される無駄のない早業で倒れる悪党たち。

前述のケガによるもので若いイーストウッドに比べて動けないという欠点をむしろキャラに活かし、モンコとは違う老練のガンマンっぷりを遺憾なく発揮している。

「昔は無茶したが死ねない理由ができてしまった」というセリフも相まってひとりのキャラクターとして完成されすぎている。

こんなにカッコいい男を二人も出すな。

致死量を超えているぞ。

 

悪役が魅力的なのも傑作映画に必要な条件だ。

「荒野の用心棒」から引き続き別の悪役を演じているジャン・マリア・ヴォロンテ

シンプルに荒くれ者だったラモンとは異なり、死なれた女の形見を持ち歩き、死に急ぐような命のやり取りを涙を流しながら楽しむも哀しむそぶりを見せ、時に抜け殻のようになり手下に布団をかけられる。

そんな複雑怪奇で深みがあるのに、普通に悪党なので道場の余地がない。

ただひたすら「おもしれー悪党」に徹する映画史に残る最高の悪役だ。

 

そんな三者が揃うクライマックスは映画の歴史に燦然と輝く、宇宙一かっこいい11分だ。

インディオに追い詰められたモーティマー大佐の見せる、死を前にした絶望とはまた違う哀しみの表情。

オルゴールが鳴り終わる直前、最高のタイミングで登場するモンコの手が二人を分つように映されるのはあまりにも素晴らしい。

イーストウッドの目、表情、セリフ、ライフルとオルゴールを持つ手、その全てがカッコいい。

 

完全に処刑BGMとなっていた美しいオルゴールの旋律が逆転し、相棒の武器で最終決戦に挑むシチュエーション。

モリコーネの音楽は最高潮。

ここでのインディオの表情がまたたまらない。

 

最高に熱い最終決戦と爽快なハッピーエンドから、タイトル回収を2回見せる余裕。

この完成度の高さで前後作の日陰者とは、なんたる贅沢な話か。

 

僕は映画の名シーンをよく歌のサビだと例える。

印象的なテンポのメロディや歌詞を持つ歌のサビを思い出すように、何十年も語り継がれる名シーンはその前後のシーンやセリフ、音楽も含めた一連の流れ全てがセットになって思い出される。

カメラが捉えた俳優の演技、巧みに編集された映像を音楽が彩る。

サントラだけでは物足りない、セリフと映像がないと何かが違う。

そのシーンを見るだけでも昂まるが、やはり頭から2時間観た末に辿り着いた時の映像的快楽は何者にも代え難い。

 

本作も4Kリマスターで上映されており、「荒野の用心棒」から更に綺麗になっていてビビった。

こんな最高の環境で映画史に燦然と輝く傑作の素晴らしいサビたちを観られる機会はもう一生ないかもしれない。

あと何度かは観ておきたいと思ったのでした。