作品情報
原題:Ricky Stanicky
監督:ピーター・ファレリー
出演:ザック・エフロン/ジャーメイン・ファウラー/アンドリュー・サンティーノ/ジョン・シナ/ウィリアム・H・メイシー
制作国:アメリカ
上映時間:114分
配給:Amazon Prime Video
あらすじ
ディーン、JT、ウェスの3人は「リッキー・スタニッキー」という架空の人物をでっちあげ、悪戯三昧の少年時代を過ごしてきた。20年後、大人になった3人は何かをやらかしたり嘘をつく時の便利な言い訳として、現在もリッキーを使って難を逃れていた。そんな彼らを不審に思った妻やパートナーはリッキーに会わせるよう要求。そこで3人は落ちぶれた俳優ロッドを雇いリッキーを演じてもらうが、ロッドが想像以上に完璧なリッキーを演じて周囲の信頼を勝ち得てしまう。
ピーター・ファレリー監督の原点回帰!!
2018年、「グリーンブック」でアカデミー賞を獲得したピーター・ファレリー監督の最新作。
そんな華々しいキャリアを持つ監督だが、元はと言えば弟のボブ・ファレリーとの兄弟監督で、「メリーに首ったけ」「愛しのローズマリー」などおバカ系のコメディ映画で名を馳せた下地がある。
本作はコメディ作家ファレリーの大いなる帰還であり、大爆笑間違いなしのシチュエーションコメディだ。
本作は監督のみならず主演もザック・エフロン&ジョン・シナと、Amazonプライムビデオ配信なのが不思議なくらいのビッグネームが揃っている。
特にWWEのプロレスラーでもあるジョン・シナがその圧倒的な存在感でニッキーを怪演。
近年は「スーサイドスクワッド」「ワイルドスピード」などにも出演しスター俳優の名声を縦にしている、僕も大好きなレスラーであり俳優の一人だ。
その鍛え上げた肉体のみならず、シリアスからコメディまでこなす演技力が魅力のジョン・シナがあまりにもハマり役で素晴らしいので、シナファンには絶対に見てほしい。
そして、昔からそうだがファレリーのコメディ映画はただのバカ映画に収まらない、ちょっといい話的な深みがある。
前半は悪友の3人が親類を誤魔化すために雇った俳優にリッキーを演じさせ、それを完璧に演じすぎる様子を時にハラハラし、時に爽快な気持ちになる純粋なコメディだ。
そして後半、映画はコメディの様相を保ったまま現代の社会性を帯びていく。
あまりにもリッキーにハマりすぎたロッドはもはや自己暗示の領域でリッキーの人格を獲得して周囲に好かれる人間になり、主人公たちは嘘の存在が受け入れられ困った状況に陥る。
シチュエーションコメディとして彼らの良い方向に話は転がっていくが、これは単なるご都合主義なだけではなく、さまざまな示唆に富んでいる。
場末の酒場のコメディアンで飲んだくれのロッドが社会奉仕活動に熱心なリッキーを演じるために様々な事を頭に叩き込み、自身をリッキーと思い込む様子は昨今のハリウッドで良くも悪くも話題になるメソッド演技法のそれだ。
メソッド演技は暗示の様に役にのめり込む事で高い演技パフォーマンスを発揮するというものだが、肉体、精神面への悪影響から有名な俳優の間でも賛否は分かれている。
ロッドはメソッド演技じみた狂気の役作りで最高のリッキーを演じ切り、それがきっかけで人生が思いがけない方向へ転じていく。
この映画を見ていて思ったのは、心の在り方や環境が人間の良し悪しに大きく起因するという事だ。
ロッドは偶然訪れたチャンスを持ち前の真面目さでしっかり獲得したし、演技とはいえ素晴らしい人柄ゆえに更なるチャンスに恵まれた。
初めは何者でもない雇われ役者だった彼が、後半では主人公として輝かしいサクセスストーリーを見せてくれる。
そして、ジョン・シナは持ち前の魅力的な人柄でそんなリッキーを存在感あるキャラクターとして表現し、この映画のクオリティを引き上げる事に大きな役割を果たしていた。
思えば最初から最後まで同性愛者や障がい者が出演するなど、多様な人々の描写に監督の意識を感じるが、そこを押し付けるものではなく自然な配置がされていた。
社会的なテーマもキャスティングもハリウッド大作が説教の様に語るものではなく、コメディ映画の流れの中でごく自然に提示されている。
特にウィリアム・H・メイシー演じる社長とのエアペニスのくだりは一生笑えるかと思った。
オスカー獲得の大作映画を経た、現在のピーター・ファレリーの到達地点を垣間見た様な素晴らしい傑作。
エンドロールまでたっぷり観客を楽しませる事を忘れない精神もいい。
天晴。