作品情報
原題:Air
監督:ベン・アフレック
出演:マット・デイモン /ベン・アフレック /ジェイソン・ベイトマン /マーロン・ウェイアンズ /クリス・タッカー /クリス・メッシーナ/ヴィオラ・デイヴィス
制作国:アメリカ
上映時間:112分
配給:ワーナー・ブラザース映画
年齢制限: G
あらすじ
1984年、業績不振のNIKEバスケットボール部門の立て直しを命じられたソニー・ヴァッカロ。バスケットシューズ界の市場をコンバースとアディダスが占める時代。ソニーと上司のロブ・ストラッサーは当時まだ無名の新人選手マイケル・ジョーダンに目をつけ、全てを賭けた一発逆転の取引に挑む。
エア・ジョーダンとは
バスケを知らない人でもマイケル・ジョーダンという選手や、エア・ジョーダンというスニーカーの名前くらいは聞いたことがあるのではないだろうか。(少なくとも90年代生まれの僕はそうだった)
映画を見るにあたり改めて調べてみた。
エア・ジョーダンはNIKEが作る「エア〇〇」というシリーズのバスケットシューズで、後にスーパースターとなるマイケル・ジョーダンのために作られたシューズだ。
映画でも描かれるが、NIKEは誰にでもウケる商品ではなく、圧倒的なスーパースター専用のシューズを作り、それに彼のイメージを落とし込んだ。(擬人化ならぬ擬靴化?)
「スーパースターと同じものが欲しい」という訴求点は見事にハマり、シューズは空前の大ヒット。業界の勢力図を書き換え、転売目的の購入や強奪事件も多発。
もはや投機の対象になるムーブメントを起こした。(昨今でいうところのポケモンカードだろうか)
本作ではそんなエア・ジョーダン誕生の物語が中心に描かれる。
エア・ジョーダン開発を中心に描かれるのは誰の物語か
まず予告編を見た率直な感想は、「面白そうだけどパンチが弱い。Amazonスタジオ配給だしプライムビデオかな?」という感じだったので、劇場公開のチラシが来て驚いたのを覚えている。
公開から1週間ほどで鑑賞したが、テンポが良く映画から力をもらえる娯楽作で、実際かなり面白かった。
NIKEがマイケル・ジョーダンを獲得する熱い交渉戦の連続。
会社の重役、マイケル本人、そして母親、次々立ちはだかる高い壁をあの手この手で乗り越えていく。
会議で激昂する俳優の顔芸が見どころ!みたいな誇張芸に頼るのではなく、堅実な会話劇で人物や出来事を正しく描こうとする姿勢も見えて好感が持てた。
しかしこの映画、実話を基にはしてそんな誠実な作りをしているのに、あまり実話映画であることに固執していないとも感じた。
というのも、これだけ実名の企業が登場するにも関わらず、ベン・アフレックはNIKEと話し合いの場を設けたことはないというのだ。
アディダスなど同業他社も出てくるが結構ボロカスな扱いだし、よく許可が取れたなと思っていたが、そもそもそんな確認はないまま作られたのだろう。
更に言えば、これはマイケル・ジョーダンを讃える映画として本人が関わっている訳でもない。
これはNIKEとマイケルの映画のように宣伝されているし、実際そこが軸ではあるのだが、この映画の熱い魂が宿っているのは主人公のソニー・ヴァッカロとマイケルの母親、デロリス・ジョーダンだ。
マイケルの母親が傑物すぎる
伝説のシューズ誕生によるNIKEのサクセスストーリーという触れ込みで宣伝されているが、この作品に最も熱量を感じたのはむしろNIKEでもマイケル・ジョーダンでもなく、マイケルの母親の物語だ。
これはもともと脚本にはなく、マイケルと友人だったベンアフ監督が映画の話をした際に彼から直接NIKEの重役ハワード・ホワイト(演:クリス・タッカー)や母親のデロリス・ジョーダン(演:ヴィオラ・デイヴィス)のエピソードを教えてもらい、脚本に加えたようだ。
この母親が実際どうだったのかはわからないが、映画の母親は明らかに只者ではない。
演劇界の三冠王、ヴィオラ・デイヴィスが演じているのだから当たり前だが、その眼力、佇まい、醸し出される迫力、交渉力。
その全てが傑物すぎて5秒に一回くらい「こんなオカンいるか!!!」と叫びそうになった。
NIKEのアンダードッグ
主人公のソニー(演:マット・デイモン)は破天荒なはみ出しものキャラ。
ベンアフ演じるフィル・ナイトCEO(ちょっとあざといくらいかわいいキャラにされてる)は彼にひたすら振り回されるし、彼の突飛な行動がエンジンになっているが、会社のみんなは大体彼に苦労させられる。(それをしみじみ言われて普通にごめんって言うシーンはじわりときた)
そんな彼だがクライマックスのプレゼンスピーチで放つ、心の底から出た誠意に溢れる長台詞には胸を打たれ全身が痺れた。
マイケルとソニーという二人のゲームチェンジャーに、これから映画界のゲームチェンジャーになろうとしているベン・アフレックとマット・デイモンを重ねずにはいられない。
マット・デイモンとベン・アフレックについて
マット・デイモン&ベン・アフレックといえばハリウッドを代表する名コンビ。
幼い頃から友人だった二人は共同で脚本を執筆した「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」でアカデミー賞を獲得。最近ではリドリー・スコット監督の「最後の決闘裁判」での主演&共同脚本も記憶に新しい。
本作でデイモンは主演、アフレックは監督&出演。製作には二人揃って名前を連ねているが、実は共同製作やアフレック監督作への主演といったコラボは今回が初めてだ。
というのも、本作を製作した"Artists Equity”は二人が最近立ち上げた映画製作会社。
40年来の親友と好きな映画を作れるということでかなり高いモチベーションで作られた本作で描かれるNIKEのサクセスストーリーには、彼らの目指す理念や野望が不思議とシンクロしているようにも見える。
裏テーマというほどでもないかもしれないが、そういった意識が裏に流れていることを感じながら見るのも味わい深い。
ベンアフはジョス・ウェドンの「ジャスティス・リーグ」でだいぶ参ってしまったようだが、これからは好きな映画を伸び伸びと作って欲しいと切に願う。
まとめ
「AIR/エア」は実話映画というよりは、業界のルールすら塗り替えるゲームチェンジャーを讃える作品として楽しめた。
80年代に流行した映画や楽曲の引用もいいセンスだし、上述した以外にもエア・ジョーダンをデザインしたピーター・ムーアの靴作りに対する熱意や職人気質な描写もあり、とても良い映画だった。
上映回数はかなり減ったが、数字を維持する持続力から初週よりも調子がいいようにも見える。(ダンジョンズ&ドラゴンズも同じ動きをしている印象)
口コミの効果が大きいところなのかもしれないが、いい映画なのでもっとたくさんの人が見られるようこの調子で頑張ってほしい。
ちなみにポスターやチラシ同様パンフレットもスタイリッシュ。
エア・ジョーダンに恥じないよきデザインなので記念に買うことをオススメする。
5/14追記
アマゾンプライムビデオにて5月12日より早速配信開始。
ちゃんと映画館で観た上でこんなにも早く見られるというのはアマゾンプライムスタジオ制作最大の強みだと思う。
吹き替えがきちんと一流の声優で固められていてよかった。
特にクリス・タッカーが昔同様山ちゃんだったのが最高。