作品情報
原題:The Flash
監督:アンディ・ムスキエティ
出演:エズラ・ミラー/サッシャ・カジェ/マイケル・シャノン/ロン・リヴィングストン/マリベル・ベルドゥ/カーシー・クレモンズ/アンチュ・トラウェ/マイケル・キートン/ベン・アフレック
制作国:アメリカ
上映時間:134分
配給:ワーナー・ブラザース映画
年齢制限:G
あらすじ
地上最速ヒーローのフラッシュことバリー・アレンは、幼い頃に亡くした母と無実の罪で服役する父を救おうと、時間をも超越するスピードで過去へ遡り歴史を改変してしまう。その世界では別のバリーと両親が幸せに暮らし、他のヒーローは存在せずバットマンは全くの別人になっていた。さらに、かつてスーパーマンが倒したゾッド将軍が地球に襲来。フラッシュは世界を元に戻し、人々を救おうとするが・・・
上がりきった期待を軽々超越したDCアメコミ映画史に残る傑作
5、6年ほど前は「面白くないのでマーベルを見習ってください」なんて言われる側だったDC。
「ダークナイト」が起こしたジャンルの革命が半ば呪いとなり表面だけ似せたダークなヒーローものを量産した結果、明るくポップなヒーロー路線を取りクロスオーバー戦略もどハマりしたマーベルに大きく引き離されてしまった。
ここ10年、マーベルがアメコミ映画というジャンルのトップの座に君臨し続けた事は揺るぎのない事実である。
だが、DCコミックのヒーロー映画には古い歴史があり、映画史を変えたノーランの「ダークナイト」シリーズはもちろん、クリストファー・リーヴの「スーパーマン」シリーズやティム・バートンの「バットマン」など、コミック映画の歴史の転換を何度も起こした実績もある。
DCのヒーロー映画は必ずしも成功した作品ばかりではないが、それぞれの映画や個のキャラクターたちがしっかり地に足のついたパフォーマンスを見せてくれる。
かつて欠点とされていたクロスオーバーの薄さも、ここにきて強く生きてきたようにも思う。
この「ザ・フラッシュ」にはジャンルを変えるほどの新規性はないが、親しみの湧く主人公、シンプルで見やすくカッコいいアクション、ちゃんと面白いユーモア、母を探す子という誰もが共感できる本質的でエモーショナルな脚本。
面白い映画の基礎が、ヒーロー映画というジャンルから失われつつある大切な精神が、この映画には全てある。
コミックヒーロー映画で本当に涙を流したのは、僕が大好きな「ワンダーウーマン1984」以来だった。(というか久しぶりに映画でこんなにバカ泣きした)
正直言って書きたいことはたくさんあるのだが、DCコミックにしては珍しくネタバレ厳禁な描写があまりにも多くほとんど何も言えない。
予告編からバリバリ感じていたザック・スナイダー感、これに大いに期待を持っていた僕の想像を遥かに超える迫力のアクションシーンの数々。
あのベン・アフレックとマイケル・シャノンがカムバックしてくれたのもザックへのリスペクトが感じられたからだろう。
(マイケル・シャノンは今回のゾッドがただの置き物悪役で前作ほど深いキャラになってないのが気に入ってないようだが、そうなる理由もそれでよかったことも見れば納得するだろうし、それだけゾッドを愛してくれているのは普通に嬉しい)
「IT」のアンディ・ムスキエティになぜザックの真似事ができるのか不思議だったのだが、この人はシンプルに他人の色を再現するのがうまいのだと思う。
冒頭のベンアフバットマンのバットモービルシーンから感じたのはザック感よりむしろノーラン感。
マイケル・キートンのバットマンが登場するシーンにはちゃんと「あの」バットマンシリーズの雰囲気を感じるし、そこにはティム・バートンがファンから叩かれながらも守り抜いた演出プランに通づるブレない軸が確かにあった。
書きたいけど書けないあれやこれもキチンと本家作品が持つ雰囲気や空気感、描いてきた魂があるし、無念に終わったあれとかやりたかったこれとか、もはや公式二次創作の域まで踏み込んだマルチバースの奇跡。
もはやムスキエティによるワーナーのDCヒーロー映画史総決算祭的な雰囲気すらあって頭がどうにかなりそうだったが、何よりもDCヒーロー実写化の長い歴史に対する敬意を感じるのが素晴らしい。
クロスオーバーが薄いのがむしろDCの強みだったと最初の方で書いといてなんだが今回はなんとそこも強くて、手触りとしては「シビル・ウォー」「インフィニティ・ウォー」に近い興奮度だったかもしれない。
映画ネタ中心で見やすくわかりやすい小ネタや嬉しい意味のあるサプライズの数々。
笑えて、泣いて、ほしいところでちゃんとほしいところまで感情を高まらせる劇伴やポップスが鳴り響き、監督のセンスとこちらの見たい物がきっちりシンクロするのでどこまでも気持ちよくなれる。
愛すべきヒーローの条件、ヒーロー映画というジャンルをかなり初心に帰って描きつつ「マルチバース」という最近の流行をかなり上手に取り扱っている。(ここはマーベルより一枚上手、いや五枚くらい上手だった)
どのセリフにも2つ以上の意味があり、扱いの難しいマルチバースすら映画の展開と大人の事情の双方に作用させ、それらを感じさせない自然な仕上がりに落とし込んだクリスティーナ・ホドソンの脚本が素晴らしすぎる。(サプライズ頼りで中身のない映画が量産されるアメコミ映画食傷時代にこれをお出しできるのは偉いよ)
世界中の映画批評家と観客から絶賛され、トム・クルーズがおねだりして試写を見て感動のあまり監督に電話したのも頷けるし、これだけエズラ・ミラーが問題を起こしても劇場公開を貫き通したのも納得のクオリティ。
同世代俳優と比較しても群を抜いた高いステージにいる彼の圧倒的な演技力が、この映画の根幹だ。
タイムトラベルもので自他共に認める「バック・トゥ・ザ・フューチャー」オマージュ作品だが、僕はどちらかというと「バタフライ・エフェクト」を感じたし、つまるところ「シュタインズ・ゲート」のオタクは必見の大傑作なのであります。
事前情報で「ザック・スナイダー時代からジェームズ・ガン時代への橋渡しをする作品」と聞いていたのだが、これはそんなものでは収まらない。
もはや「掟破り」とも言えるあのシーンの数々を見せられたら、否が応でもDC映画の今後に期待せざるを得なくなってしまった。
「スナイダーカット」であまりにも巨大な絶望を味わったことすら昔の思い出として割り切れちゃうほどに、今のDCには希望が満ち溢れている。