ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「聖闘士星矢 The Beginning」(2023)

作品情報

原題:Knights of the Zodiac

監督:トメック・バギンスキー

出演:新田真剣佑ファムケ・ヤンセン/マディソン・アイズマン/ディエゴ・ティノコ/マーク・ダカスコス/ニック・スタールショーン・ビーン

制作国:日本

上映時間:114分

配給:東映

年齢制限:G

あらすじ

幼い頃に姉と生き別れた青年・星矢は、スラム街の地下闘技場で戦うその日暮らしの生活を送っていた。ある日、戦いの最中に不思議な力を発したことから、彼は謎の集団に狙われる身となる。やがて自身の内に「小宇宙(コスモ)」という力が秘められていること、その力を鍛え、女神アテナの生まれ変わりである女性シエナを守る運命にあることを知った星矢は厳しい修行を重ねるのだが・・・。

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君の小宇宙が燃えるのなら、この映画は聖闘士星矢

言わずと知れた日本の超人気漫画「聖闘士星矢」をついに実写映画化。

キャストにはファムケ・ヤンセンショーン・ビーン、マーク・ダカスコスらを揃えた豪華な布陣。

 

「コナン」や「マリオ」で賑わうGWの映画館に突如として現れたダークホース。

ハリウッドのスタッフやキャストで制作しているが、制作費を100%日本の東映が持つというかなり珍しいスタイルの作られ方をしている。

この嫌な予感しかない題材をどう料理したのか、原作はwiki知識、「聖闘士星矢Ω」と「聖闘士星矢 黄金魂」は全部見ている程度のにわかファンな僕なりの目線で振り返りたいと思う。

 

漫画アニメの実写化映画に必要なのは・・・

アニメや漫画の実写化でお決まりの話題は「原作再現度」や「製作陣の原作愛」だ。

もちろんどちらもあるに越したことはないとは思うが、僕は実写化作品においてこれは必ずしも必要ではないと思う立場だ。

今、全世界で話題沸騰の「マリオ」は作り手のマリオ(任天堂)愛、そして任天堂の確かな監修があって生まれた大傑作だ。

しかし、原作ファンに叩かれるが興行的に大成功を納めたり、良い出来の映画はいくらでもある。

興行の面で言えばポール・W・S・アンダーソン監督の「バイオハザード」シリーズは、3作目以降は全くゲームと関係なくキャラの版権だけを使ったストーリーだったが、それでもそこそこの予算で割と稼ぐ優等生映画として見事な結果を残した長期シリーズとなった。

同監督の「モンスターハンター」はそこまで評価されていないが、個人的には観客が観たいものをわかっているという点で非常に優れていると思っている。

トニー・ジャーミラ・ジョボビッチのやたら長い殴り合いや、近代兵器とモンスターのガチンコバトルをたっぷりお見せし、最後は急にゲームのモンハンみたいなバトルが始まったと思ったら「ポール・W・S・アンダーソン先生の次回作にご期待ください!」な打ち切りエンド。

「それバイオハザードじゃねえか!」とツッコミたくなるような中盤のホラー展開。

ディアブロスがボスかと思ったらリオレウスや、おまけに出てきた「あの古龍」まで、サービス精神が旺盛なところもめちゃくちゃだが好きだ。

 

他にも、「ホットギミック ガールミーツボーイ」という少女漫画の実写版映画は原作ファンにボロクソ言われたというが、映画としてはなかなか見事な出来栄えだった。

少女漫画原作ながら、ジャンルそのものに対するカウンターを放つような物語を山戸結希監督が圧倒的な映像と編集で繰り出した。

まあ、そんな個人の主義が入った映画は原作ものじゃなくオリジナルでやれよ、という原作ファンの声もわかるのだが。

 

長くなりすぎたので話を戻すが、何が言いたいかというと原作再現や愛はクオリティにおいてマストではないということ。

マーベル映画はコミックの設定を実写映画のリアリティラインに落とし込むテクニックが上手いから違和感なく実写化できている。

実写化作品の違和感の特徴であるコスプレ感や嘘っぽさをなくすには原作をただ忠実に再現するだけではいけないし、面白い映画にするには原作をただなぞればいいわけではないのだ。

 

それを踏まえて今回の「聖闘士星矢」を観ると、そういったところにかなり気を遣っている。

物語は地下闘技場のファイターである星矢が「小宇宙」に目覚め、修行を積み聖衣に認められ、フェニックスの聖闘士と戦いアテナ(の生まれ変わり)を助けるという、長大な原作のかなり一部にフォーカスしている。(いくらビギニングと言ってもビギニングすぎるだろ)

丁寧なのでそれなりに見れるが、丁寧すぎる所が逆に気になる。

どう考えても「ドラゴンボール エボリューション」か「モータル・コンバット」枠の映画だろ、お前は。

 

聖衣のデザインも車田先生にお伺いを立てながら実写ならではのデザインにし、そのエピソードをメディアに出すことでオタクの理解を得ようとする仕草も見られた。

 

過去の失敗を参考に対策を打つ。

そういったところに気概は感じるし、目の付け所は非常にいいと思う。

そこはよかったのだ、そこは・・・

 

正気か東映!?

ここで僕が気になったのは「聖闘士星矢」を実写化することではなく、映画館の稼ぎどきトップ3に入るGWに投入してきたこと。

制作費全部持ってハリウッドに映画を作らせること自体もだが、最近の東映は攻めの姿勢がすごい。

おそらく誤算だったのは、同じ東映の「THE FIRST SLAM DUNK」が公開から半年経って未だにバカ売れしていたことだろう。

正直「聖闘士星矢」の客足はかなりよろしくないので、東映からしても「星矢よりスラダン流してください・・・」なのではないだろうか。

グッズに関しても、アニメのグッズを作ってもしょうがないし、グッズにして映えるキャラのいる映画でもない。

その結果、本作の物販は真剣佑のファンミで売ってそうな真剣佑写真使用グッズしかないのも観にきた人には寂しいのではないだろうか。

せっかく気合の入った吹替版も作ってスタッフキャスト勢揃いで来日したかなり大規模なプレミアイベントも行ったが、客足はかなり鈍い。

ここまでくると、当初「ナイツ・オブ・ザ・ゾディアック」というタイトルだったのを「聖闘士星矢 The beginning」に変更したのも、星矢ファン以外にも見てほしい!→タイトルよくわかんなくて星矢ファンすら来なさそう、となったが故のテコ入れなのでは・・・と思わざるを得ない。

 

制作費全部持ちもクレイジーな話だが、スラダンと「ONE PIECE FILM RED」が大成功しててよかったね。

じゃなかったら破産ですよ。

続編も厳しいかな・・・

 

超個人的な本音

正直劇場側はこの映画を流す時間で他の映画をやってれば売上が1日あたり数十万〜数百万違ったなとか思わなくもないだろう。

だが、世の中にはめちゃくちゃいいのに売れない映画もあるし、誰が観るのこれ?という映画もある。

映画館は売れる映画ばかり流すのではなく、様々なジャンルの映画を流し可能な限りたくさんの人々を幸せにすることが使命だと僕は考えている。

どんなに他の映画が売れていて、その映画ばかりやれば儲かるという状況にあっても、多様性に富んだ番組編成で幅広いお客さんに満足してほしいと願っている。

 

映画に関して嘘はつきたくないので一部辛辣な気持ちも書いてしまったので、その点についてはこの映画やファンにはお詫び申し上げる。

散々言っといてあれだが、この映画を貶したり否定するつもりはない。

犠牲になるのは僕一人でいい・・・とか、そんなやべーなら観るか!となる物好きを触発したいとか、なんか自分でもよくわからない気持ちで書いている。

誰の何のための記事なんだこれは。

 

唯一許せないのは、「最高のタイミングでペガサス幻想が流れるんです!」という感想を流布した各種映画情報サイトだ。

映画っぽいしっとりしたオーケストラアレンジが流れるだけなら最初からそう書け!

そこだけを期待して見に行った人がどんな気持ちになるか考えなかったのか!

騙されて見にくればそれでいいのか!

これだけはマジで許されない。

絶対にだ。

 

まとめ

聖闘士星矢 The Beginning」は、実写化の方向性としては非常に良く分析されているように思える。

だが、肝心の映画はちょっと金のかかった豪華俳優陣のB級アクション映画という雰囲気を超えられず、その割にやたら真面目な脚本(そうでもないところも多々あるが)でどうにもパッとしない仕上がりになってしまった。

真剣佑の身体は仕上がってたし、マリンら聖闘士のキレッキレのポーズは帰り道に真似したくなったので、僕の心の中にいる中学生の部分をしっかり刺激してくれたという意味では、この映画には聖闘士星矢の魂が宿っているということなのかもしれない。

実際、真剣佑の手や指先まで行き渡った芝居は見事なものだった。

 

とはいえ、ボンクラ映画を褒めることで他と違うんですよっていう優越感や通っぷりを見せたがるタイプのオタク(半分自己紹介)しか喜ばないだろこれ・・・という気持ちはあるので、ご家族でGWを過ごすなら素直にマリオやコナンを見た方がいいと思う。

 

マリオの記事ではいい意味で「見た後に何も残らない」と書いた。

そう評される映画がたまにあるが、楽しい気持ちが残ってる場合はまだマシだ。

そういうのはマジで虚無しか残らない映画を見てから言ってくれ。