とある映画館に対する車椅子利用者のSNS投稿が数日経った今も熱を帯びている。
僕が働く映画館でも車椅子対応は日常なので人ごとに感じられず、もういいだろと思いつつタイムラインに流れてくるとついつい目で追ってしまう。(まあ自分の仕事に関する話題だしね)
幸いなことに僕は職場に来られる車椅子のお客様をご案内に関して揉めた事はない。
お客様を担ぐ事は安全面からお断りしているが、劇場のルールを守りつつ可能な範囲でこちらができる対応をして、その可能な範囲を最大限にするためにお客様にお願いするご面倒な事も受け入れてもらえている。
古い劇場で行き届かないところはあるが、適度な距離感で良好な関係が築けているのではないかと思っており、それはすごく幸せな事だと思う。
話題の劇場側をことさら擁護する気はないが、SNSに書かれる企業への苦言はしばしば主観的で一方的になりがちだ。
僕も劇場のルールに則った対応を取り、それに不満を抱いたお客様からSNSでまるで暴言を吐く横柄なスタッフの様な書き方で苦言を呈された事は何度もある。
そしてそういう場合は、得てして書き込んだ本人側の発言はものすごく丁寧な口調で、僕ら劇場側の発言は無礼な形に改変して投稿されるので「勘弁してよ・・・」と辟易する。
今回の件がそうだと断じるつもりはないが、第三者として受け取る際は冷静に見つめる必要はあると思う。
件のツイートの場合、僕は「支配人みたいな人」という書き方に「スーツ着た年配が対応した?バイトではないだろうが一般社員の可能性もあるかなぁ」とか思ったし、「この”劇場”以外を使ってほしい」という言い方にも「当該映画館以外の映画館」なのか「当該映画館の車椅子スペースのある他のスクリーン」なのか、どちらとも取れる気がした。
劇場スタッフ側の言い方が本当に不味かったのか、車椅子利用者側の誤解&悪意ある拡散なのか、真実はわからない。
だが、こういう大事になると嫌だし本当に色んな状況が想定できるので、僕は多少迷惑ユーザー寄りの方に出会っても建前程度のお願いをして事なきを得る場合が多い。
だから色んな意味で「よくそんな直球投げたなぁ」と思った。
だって必ずしもお客様の希望のスクリーンで見たい映画がかかっているとは限らないのだから。
もし車椅子スペースのあるスクリーンを使ってくれというお願いだったとしても、じゃあそういう構成の番組表を作る義務が映画館側に生まれるけどその覚悟はあるんだよね?と映画館側に問いたい。
ちなみにこの件で消防法も話題として見かけるが、それは避難経路となる通路上に車椅子を置いてはいけないというだけの話で、車椅子スペースに駐車した状態で介助者などの手を借り中央の席に移動する事自体は規制されていない。
移動可能な方であれば、購入する座席の場所は基本自由だ。(他所は知らないけど)
まあそもそも義務ではないとはいえ車椅子スペースがないスクリーンが今時あることには普通に驚いたが・・・
僕の働く映画館も昨今の例に漏れず場内は階段で、車椅子スペースは最善か最後尾のどちらかにしかない。
新宿ピカデリーやどこか忘れたイオンシネマ、TOHOなどのセンターあたりに通路と車椅子スペースがあるタイプの構造になっている劇場は(最初からそこまで考えてたかわからないが)よくやってるなぁと思う。
言葉を選ばずに言えば、多くの観客が座りたいであろうセンター席を年に何人来るのかわからず、来ても障害者割引で通常料金の半額のチケット代しか頂けない車椅子利用者のためにスペースとして開けておくのは経営の事を考えたらあまりいい考えとはいえないからだ。
こんなことを書くとけしからんと言われるかもしれないが、邦画の日本語字幕版も通常回を上映すれば100人の収益が見込める様な作品でも1/10以下の動員しか来なくなってしまうなんてざらなので、とにかく経営の事を考えたらやらない方がマシなレベルである。
それでも邦画の日本語字幕版の回数を確保し、そこならではの付加価値をつけられないかと日々思案している弊社番組担当の姿は素直に尊敬している。(普段どうしようもない人間なのでこういう言い方になる)
どうすれば車椅子を利用している人にも健常者と全く同じ感覚で映画館を使ってもらえる用
ようになるだろうか。
まず出入り口の自動ドア化は必須として、場内の段差を無くしなるべくフラットにする必要があるだろうが、ここで一つ出てくる問題が「昨今の劇場の高低差」だ。
昭和の映画館は劇場内がスロープになっているところが多かったが、最近のシネコンはどこも階段になっている。
理由はあまり詳しくないが、都心の土地は高く縦型ビルの映画館が増えたため、横より縦に長い構造の劇場にせざるを得なかったのではないかと思っている。
昭和に建てられた映画館を「前の人の頭がかぶる」と忌避する映画館利用者はこれに恩恵を受けているはずなので、前の席に背が高い人が来ても文句を言わない人だけが階段構造のビル型劇場に石を投げてください。
車椅子を使ったことある人にしかわからないと思うが、スロープの傾斜は歩行者なら何の苦もなく登れる傾斜でも車椅子には非常に高い壁に等しい。
もし映画館の中をスロープにしようとしたらかなりの土地面積が必要になるが、都内でそんな映画館はほとんどないし、IMAXみたいな巨大スクリーンではなおさら無理だ。
大手はまだしも中小企業の映画館で既存劇場のリフォームは難しいし、最初から中央に通路が来る様に設計するしかないだろう。
これから建つ新しい映画館にはできる限りのバリアフリー化を祈るばかりだ。
この件はただのクレーマー問題として処理すべきでなく、もっと建設的な話題につなげる必要があると思う。
そして僕の個人的な考えだが、映画館のバリアフリー化は大手の資金力にかかっている。
大手3社(特に東宝)は不動産で死ぬほど稼いでいるのだし、その金で全国の所有映画館のバリアフリー化を率先して進めるべきだ。
地方まで行き届いているTOHOシネマズみたいな大手シネコンがそれを行えば、たくさんの車椅子利用者をカバーできるし、資本のない田舎の中小映画館をムチ打つよりよほど現実的だと思う。
それをしてくれるならバカみたいに長い広告も、クソうざいロペも甘んじて受け入れよう。
他にはシネマチュプキみたいなバリアフリー特化の映画館がもっと増えるといいなと思う。
都内シネコンの車椅子スペース状況をまとめたブログを作っている方もいるので、こういったものを活用する人が増えるように話題にする事も有効だろう。
最後に、僕は本件を車椅子利用者と映画館運営会社の二者による問題として他人事な健常者が多い様にも感じている。
バリアフリーを進めることで想定される事のひとつが、そこにかかるコストが映画料金に反映されることだ。
劇場のリフォームまで行かなくても、設備や人件費、もし介助スタッフの常駐が必要とされるならその研修コストがかかる。
通路を広くする、車椅子スペースを増やす、いい席を車椅子スペースにする、いずれも通常の座席が減ることになるので、マジョリティである皆さんの鑑賞料金や不便の増加への反映は避けられない。
車椅子利用者vs映画館運営会社のような構図として消費するのではなく、その界隈に変革を起こすきっかけにすべきだと思うし、それにより起きる出来事には大多数の映画館利用者も無関係な話ではないのです。
映画館で働いている僕がこれをいうと責任転嫁ふざけんなと顰蹙を買うかもしれないが、映画館側が努力を怠らない事を前提として、すべての映画館利用者の当事者意識がもっと必要なんじゃないかと思いました。