ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「いのちの食べかた」(2005)

作品情報

原題:Unser taglich Brot

監督:ニコラウス・ゲイハルタ

制作国:ドイツ・オーストリア合作

上映時間:92分

配給:エスパースサロウ

あらすじ

誰もが毎日のように口にしている肉や魚、果物や野菜といった食べ物が、どのようにして食卓へとたどり着くのか。ベルトコンベアに注ぎ込まれるヒヨコの群れ、自動車工場のような機械に無駄なく解体されていく牛や魚など、大規模な機械化により管理・生産された食品工場にも密着。現代人の命を支えながらも、ほとんど知られていない食糧生産の実態が映し出される。

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一切の演出を排して見る者の解釈に委ねる異色作

働いている映画館の偉い人が「これ絶対見た方がいいよ?すげぇ映画だからさぁ」というので調べたらU-NEXTで発見。

こういう自分じゃ絶対気づかない映画と出会えるだけで映画館で働くメリットを感じることができる。

 

というわけで見たのがオーストリアの映画監督ニコラウス・ゲイハルターが制作し、世界中で大反響を呼んだドキュメンタリー。

偉い人曰く、日本でも大いに話題になり約8ヶ月のロングランヒットをかましたのだという。

 

何も知らずに家で見て驚いたのだが、この映画はもはや映画と呼んでいいものかすらわからない。

数百匹のヒヨコがベルトコンベアで運ばれる様子、飛行機が畑に農薬を振り撒く様子、吊るされた牛の皮を機械が剥ぎ取っていく様子、牛を興奮させ射精の瞬間にメスを引き剥がして容器に精子を採る様子、無表情で音楽を聴く女性が流れてくる豚の足を巨大なハサミで切る様子。

様々な畑や屠殺場、食品加工工場で撮影された1〜2分ほどの映像を92分繋ぎあわせただけなのだ。

そこには出演者のインタビューや有名俳優のナレーション、音楽どころか小気味いいテンポの編集すらない。

ただ淡々と、無機質に食料を生産する最初のフェーズが映されていく。

 

最初は一体どうしたものかと思ったが、これが意外と見始めたら止まらない。

こういうのは考えたら負けなのでこちらも心を無にして見続ける。

見ていると時々、ショッキングな映像が流れてくることもある。

それはR指定になるようなものではないが、ヴィーガン動物愛護団体が見たら卒倒しそうな映像ばかりだし、うっかりこれを見たらその道に転向する人だっていてもおかしくはないと思える衝撃がある。

 

そして無になり見続けていたら、必ず自分の中に何かしらの考えが生まれてくる。

自分が屠殺に対して誰の意図もないものを見続けていたらこういう感想が出てくるのかと、これは新しい発見だった。

 

自分が興味のないジャンルの作品を見たときに出てくるものは、新しくて面白い。

それが何かを知りたくて、今日も僕は人にオススメされた映画を見る。