作品情報
原題:The Making of Rocky vs. Drago by Sylvester Stallone
監督:ジョン・ハーツフェルド
出演:シルヴェスター・スタローン/ジョン・ハーツフェルド/ダヴ・サミュエル
制作国:アメリカ
上映時間:60分
あらすじ
シルヴェスター・スタローンの親友で映画監督のジョン・ハーツフェルドが撮影した、「ロッキーVSドラゴ」を製作するスライの姿を収めたドキュメンタリー
スタローンの映画制作時の様子、芸術家としての一面が垣間見える貴重な映像
シルヴェスター・スタローンが「ロッキーVSドラゴ」を製作する姿を追ったドキュメンタリー。
監督のジョン・ハーツフェルドは「大脱走3」や「ゲット・バッカーズ」でスタローンと組んでいるが、実はこの二人は同じ大学で映画を学んだ親友同士なのだ。
コロナ禍で時間を持て余したスタローンは35年前の映画を自ら再編集し、ハーウィッツはその様子をスマホに収めてドキュメンタリーを作る。(いくら暇だからってそれはないだろと笑うスタローン、仲のいいおじいちゃんコンビだ)
非常にリラックスした様子でロッキー制作当時のハングリーだった気持ちや、「挑戦」に対する自身の考えを語る。
「人生ほど重いパンチはない」という「ファイナル」の台詞がポロッと自身の言葉としてナチュラルに出てくるあたり、やはり彼はロッキーそのものだ。
本作を見る手段としては、
・Youtubeで約90分の全編を見る(英語音声自動翻訳字幕のみ)
・日本未発売の4K UHD BOXで60分の編集版を見る(日本語字幕あり)
の2つがある。
せっかくなのでざっくりした内容と感想を延々つらつらメモ書きにして放流。
興味があったら海外版BOXを買うかYoutube見てください。
2020年9月、カリフォルニア州ロサンゼルス。
マスク姿で「ロッキーvsドラゴ」の編集室に向かうスライの姿に、コロナ禍の異常な日常がアメリカにもあった事を痛感する。
「35年も前の作品だからな。欠落もあるが楽しいパズルだ。タイムマシンみたいだよ」と語るスタローン。
自分達以外誰もいない社屋を見て「地球の静止する日」のようだと笑う。
編集室はスライが座るソファと大型のモニター、スピーカー、編集マンのダヴ・サミュエルとモニターが3台乗った彼のデスクと冷蔵庫しかない小さな部屋だ。
スライは窓から外を眺めながら、何の計画もなくそこの通りに突っ立っていた1975年を回顧する。
「自身の作品を再編集するなら繊細さと知恵と自信を持って取り組む。色々見落としていた自身を呪いながらね」
スライはここまで「ロッキー4」を恥じていたのか。
小学3年生の時、学校の先生に「今年から小テストの答え合わせは自分でしましょう」と言われた。
当時の僕はその意図を汲み取っていなかったが、これは間違いを隠蔽して書き直し100点にすることもできる状況で、それをせず間違いを間違いだと認めて前に進む練習だったのだ。(そして僕はズルを連発した)
スライにとって、「ロッキー4」の再編集は5分に一回、過去の自分の浅はかさを見せつけられる苦しくて辛い作業だったのだろう。
とはいえ、ここまでボロクソだとオリジナルが好きな人が気の毒になってくるレベルだ。
「ピカソは1人で絵を仕上げるが、映画は1つの作品を500人で作るアートだ。それが遂に自分のこだわりだけで作ることができた」
様々な人からの流行り廃りに対する意見などで映画のビジョンを固められず、時間もなく追い詰められ妥協して映画を完成させてしまったと、スライは思っていたらしい。
アポロvsドラゴのシーンの再編集について。
「戦士は最後まで戦士だ。敗北の中にある気高さを描き切れてなかった。オリジナルは完全に間違えた。記憶に残りたいというエゴのために死んだアポロを今度こそ偉大に描いてみせる」
スライは当時の自身が薄っぺらい人間で肉体の見せ方ばかりに気を取られ精神面に関して無頓着過ぎたと反省する。
確かに映画の前半をアポロ中心にしたことで、映画の半分はアポロが主人公と言っても過言ではない構成になっていたし、アポロが試合に挑みたがる動機も自然になっていたように思う。
僕がずっと気になっていた「ロッキーがタオルを投げ入れる」シーンの改変についても90分版では語っているのだが、残念ながら60分版ではカットされていてイマイチ英語で何言ってるかわからないのが非常に残念。
アポロが死ぬシーンを様々な感情が入り混じった目で見つめるスタローン監督
「インタビューに答えるドラゴ」のシーンで、色んなセリフを続けて言う素材から使う台詞を探す場面、セリフとセリフの間ではにかむ昔のドルフ・ラングレンがめちゃくちゃ可愛かった。(スライもニコニコ)
「映画監督としての自分の弱点は忍耐力。長いシーンは観客が退屈すると思ってテンポを意識していた。キャラクターに感情移入する余裕もなくシーンが切り替わるがそれは失敗だった。まるで人生を再編集するような、過去に戻って自分を見直すことが映画にはできる」
スライはロッキーを再編集することで自身の人生の過ちを修正する、タイムトラベルのように捉えているのだ。
スタローンが知らない間にソ連での試合のシーンに英語実況席の解説が入っていたことに不満そうな様子も見られる。
誰かがポスプロで勝手に入れたのか、スライの記憶があやふやなのか・・・
60分版ではカットされているが、90分板に非常に興味深いパートがあった。
「ロッキー4」のアイデアの源流となった二人のボクサー、アメリカ人で未だ破られない全階級通算25回の世界王座防衛記録を持つジョー・ルイスと、ドイツ人ボクサーのマックス・シュメリングについてスタローンが語るのだ。
アメリカの絶対王者だったジョー・ルイスと、彼に勝ったことでナチスのプロパガンダに利用されるも、王座を陥落した途端に用済みとして無視されるようになったマックス・シュメリングの構図はまさにロッキーとドラゴだ。
この二人についてはネットで調べれば記載がたくさん出てくるが、この記事がいい感じにまとまってるので興味があったら読んでほしい。
↓
【THE ATHLETE】ヘビー級王者マックス・シュメリング…激動の時代に貫いた、絆と信念
https://cyclestyle.net/article/2015/08/24/26788.html
当時の自分はうぬぼれの塊だったと笑い、自身のアップショットの多い車で走り去るシーンに頭を抱えるスタローンだが、監督として役者として、撮る前に撮りたいショットはなるべく決めて現場で悩むことはしない。
現場でプランを練り始めたり試したいことを増やしていたら全員の時間を奪ってしまうし、それはポリシーに反すると。
セリフを覚えてこない俳優に対する苦言も、スタローンの映画制作に対する姿勢が汲み取れて非常に興味深い。
同じ映像でもそのまま使うのではなく、25度角度を付けてズームアップの動きを加える事で前のカットと馴染ませるなど、かなり細かい調整を加えている事もわかった。
ちなみに「サマリタン」はこの期間に撮ったらしい事がスライの発言からわかる。(通りで外見がサマリタンそっくりだと思った)
もしやり直せるなら、アポロは死なせないとスタローンは言う。
「彼はロッキーにとって父であり兄だ。衰えた彼が車椅子に乗ってミッキーの代わりのようなことをする姿が見たかった。5作目も6作目も全く違うものになっていただろうし、「クリード」は作られなかっただろう。カールが聞いたら怒るだろうな。ごめんなカール」
この後、再編集時の音響や「ランボー」について触れる部分もあるが、60分版ではカットされる。
ドラゴというキャラクターの創造や当初のコンセプトとそこからの変更についても詳しく語られる。
ドルフ・ラングレンは友人からの紹介でスライに会いキャスティングされたと聞いていたが、その友人が実は今スマホでスライを映しているジョン・ハーツフェルドだったのだ!
ここらで気づいたが、このドキュメンタリーの他社映画映像の引用シーンをカットされていることもYoutube版より短い理由のようだ。(そうじゃないところも結構あるが・・・なぜ・・・)
いよいよ細かい編集が終わって大きなスタジオに移るが、ここでもスタローンの芸術的センスが爆発。
画面の色味のかなり細かい調整に加え、回想をモノクロにするとか、フィルムの粒子っぽさを強くするとか、ビジュアル面をかなり気にしている。
「今回のロッキー4はふざけたジョークを排除したドラマ映画だ。5本のモンタージュの寄せ集めだったオリジナルが1作目よりヒットしたのは奇跡だった」
5本のモンタージュの部分に関しては僕もよく他人にそう表現する事があるが、スライも同じこと思ってたのか・・・
その後、なんやかんやあって映画は完成。
サマリタンも終わったのか、髭を剃った姿で自宅で完成した映画を試写する。
葉巻を吸いながら満足げに映画を見るスタローン。
「35年前に言いたかった事がようやく言える。誰にでも夢を追い信念を持つ権利がある。最後に残るのは自分を信じる力で、信じ続ければいつか夢は叶うんだ」
スタローンとジョン・ハーツフェルドが映った写真と短いエンドロールで終わり。
カットされたシーンの中に、少し前にスタローンが流出させた「ロッキー新作構想」のプロットを書いたノートにそっくりな物も出てくる。
昔のロッキー制作時のノートなのだが、こういったアイテムが見られるのもファンとしてはたまらない。
「ロッキーVSドラゴ」は映画としても試みとしても非常に良いものだったと考える僕ですら「そこまで言わんでも・・・」と思うくらい「ロッキー4」がボロカスの扱いなので、アレが好きな人には見ていて辛いものがあるかもしれない。
しかし、スタローンのアーティスティックな一面、映画監督としての様々な見解や、映画制作に関わる彼の頭からつま先まで全てを見る事ができるかなり貴重なドキュメンタリー映画だった。
今度はこのドキュメンタリーの完全版をリリースして欲しくなっちゃったよ。
欲望は尽きないね。