ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「ファースト・カウ」(2019)

作品情報

原題:First Cow

監督:ケリー・ライカート

出演:ジョン・マガロ/オリオン・リー/ユエン・ブレムナー/スコット・シェパード/ゲイリー・ファーマー/リリー・グラッドストーン

制作国:アメリ

上映時間:122分

配給:東京テアトル、ロングライド

年齢制限:G

あらすじ

1820年代、西部開拓時代のオレゴン。成功を夢見て未開の地へ移住した料理人クッキーと中国人移民のルーは意気投合する。二人はこの地に初めてやってきた”富の象徴”である牛からミルクを盗み、ドーナツを作って一攫千金を狙うビジネスを思いつくが・・・

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ドーナツを作って食べたくなりました


作りました。

あえてすごく適当な感じにしたらそれっぽくなるかなと思って、割と満足。

 

「ファースト・カウ」は、こんな感じのドーナツを売ることで一攫千金を狙う男たちの友情と顛末を描いた映画。

優れた作家性を持ちながら、当時は女性のインディーズ映画監督が少なかった事から作品が大きく公開されることはなかったケリー・ライカート監督。

そんな監督の作品で日本の映画館初公開となったのがこの「ファースト・カウ」だ。

 

舞台となる1820年代は、いわゆる「西部劇映画」で見る西部開拓時代よりも更に前の時代。

アメリカ独立戦争が1776年頃で、映画になりやすいのは1860年〜1890年頃。

本作はその間の頃合いが舞台となっており、アメリカンドリームを求めてこの地を踏む男たちが来る森にはまだ文化的な街の影はない。

 

主人公であるクッキーとルーは未開の地では非力な存在で、およそ西部劇の主人公たるマッチョな男ではない。

弱肉強食の厳しい世界で身を寄せ合って生きる名もなき弱い男たち。

弱くても叶えたい夢があり、そのために犯罪に手を染めるのだが、貧富や力といった様々な格差において弱者である彼らに共感できるのは優しそうな人柄からか。

クッキーとルーを演じるジョン・マガロとオリオン・リーの二人は見ているとなんだか癒される雰囲気で、この作品にベストマッチ。

こういった男たちを主役に据えることで西部開拓時代を見つめ直す意図がライカート監督にはあるのだろうか。

 

ものすごく話題になっている映画でこのあらすじだったので、最近よくあるBLを見出してバズってるタイプの映画なのかと思ったが、厳しい環境下で偶然出会った気の合う二人の友情と安心感といった非常に素朴で原点的な物語が描かれていた。

観客が想像する余白が多いライカート監督作品は、ファンタジーではないがどこか寓話的な雰囲気を感じさせる。

 

日本では一部コアなファンにのみ知られるインディーズ作家という印象だが、本国では昨年公開した「ショーイング・アップ」もまさかのU-NEXT配給で公開。

U-NEXTでずっとケリー・ライカート監督特集が組まれて過去作を配信していたのはその布石だったのね。

過去作には70分ほどで見られる作品もあるので、興味がある方は是非。

 

「ファースト・カウ」もそうだが、ゆったりと流れる美しい時間に浸れる作品。

こんな映画こそ、映画館で見てほしい。