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映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「渇水」(2023)

作品情報

監督:髙橋正弥

出演:生田斗真門脇麦磯村勇斗/山崎七海/柚穂/尾野真千子

制作国:日本

上映時間:100分

配給:KADOKAWA

年齢制限:PG12

あらすじ

日照りが続く夏、市の水道局に勤める岩切は水道料金を滞納している家庭を回り、料金徴収及び水道を停止する「停水執行」の業務についていた。市内に給水制限が発令される中、岩切は家に取り残された幼い姉妹と出会う。父は蒸発し母も帰らない。困窮家庭の最後のライフラインである「水」を止める行為に葛藤を抱えながらも、岩切は規則に則り停水を執り行うが・・・

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観ているだけで身も心も渇く、映像力の高い力作

水道代を滞納する家庭や店舗に徴収に行き、支払われない場合は水道を止める「停水執行」を担当する水道局員が主人公という世にも珍しい映画。

「太陽や空気と違ってなんで水は金を取るんだ」という疑問には「世界一綺麗と言われる浄水施設無しに都市生活は維持できないから」という明確な答えがあるので詭弁でしかないのだが、天の恵みを制限して金を取る側として忌み嫌われる立場は心苦しそうだ。

そんな仕事を淡々とこなす主人公の岩切はどうやら碌でもない家庭で育っており、公務員で一軒家に車も持ち一見理想的な生活を送っているが、妻子とうまくいかず別居状態。

どこか普通の人より心が渇いている印象を受ける岩切が、両親に捨てられた幼い姉妹に出会うことで物語が動き出す。

 

いつもキラキラした目力溢れるフレッシュイケメンの生田斗真が、目力をそのままに光の消えた真っ黒な眼で演じる岩切という男。

「渇き」という言葉をこれほどに目で表現できる俳優が他にいるだろうか。

普段の印象からの引き算によって生まれる新たな魅力に心を奪われた。

その生田斗真と目力で真っ向からやりあう姉妹の姉役、山崎七海ちゃんは掘り出し物の逸材だ。

二人とも、目と顔が良すぎる

あと磯村勇斗は今年だけでも「最後まで行く」「波紋」と名バイプレイヤーっぷりが凄い!

彼がこの作品の潤いだ。

 

貧困問題に映画ならではのやり方で希望の光を当てる結末だが、前橋市水道局はこれを観てどう思うのかやや気になる。

僕は割と渇いた人間なので洋邦問わずこういう映画を観ても「ゆーてもっと社会的正しさも保てるいい方法があっただろ」と思ってしまうのでそんなにノリ切れない。

主人公の変化やそれに至る過程、描きたい社会問題は大いに理解できるし映画としての性質もわかるのだが、どうしてもそこの感想は、そうなるね。

そういう意味では非常に白石和彌っぽい映画なのだが、プロデュース止まりということもありいい意味でぽさが薄かったのは多分朗報。

クライマックスで急に作品の雰囲気変わるけど、あそこはオリジナルなのかな?

 

悲しいかな、是枝さんの「怪物」と時期がダダ被りしたのが本当に不幸。

あらすじとチラシだけならこれが是枝さんの新作だと思われてもおかしくない雰囲気になってるのもまた・・・

向こうはカンヌの話題もあってか非常に動員が良いのだがこちらは・・・早くも明暗は分かれてしまっている。

悪くない映画なだけに、もったいない。

 

タイトルの通り映像、脚本、お芝居と、あらゆる面から「渇き」を感じさせ、最後の「潤い」にはほっとする。

「ケイコ 目を澄ませて」と同じく全編16mmフィルムという気合の入った撮影で映像のざらついた質感は本当に最高でした。

こういう邦画には頑張ってほしいので、興味があったら積極的に観に行って応援してあげてください。