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映画「M3GAN/ミーガン」(2023)

作品情報

原題:M3GAN

監督:ジェラルド・ジョンストン

出演:アリソン・ウィリアムズ/ヴァイオレット・マッグロウ/ロニー・チェン

制作国:アメリ

上映時間:102分

配給:東宝東和

年齢制限:PG12

あらすじ

おもちゃ会社の研究者ジェマは、まるで人間のようなAI人形「ミーガン」を開発している。ミーガンは子どもには最高の友達、親には最大の協力者となるようプログラムされていた。ジェマは交通事故で両親を亡くした姪のケイディを引き取ることになるが、子どもとの接し方がまるで分からず、開発中のミーガンに任せきりになってしまう。しかし、この判断が思わぬ事態を招いてしまう。

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面白いホラー映画に必要なのは「恐怖」と「丁寧な人間ドラマ描写」

ブラムハウスとジェームズ・ワンプロデュースという安定のタッグだが、正直ナメてました。

普段ホラー映画は怖くて観ないので、「どうせ殺人人形が暴れてうわーとかキャーでスプラッターして終わりのしょうもない映画でしょ」くらいに思ってたんですが、ブログネタにしようと思い休日の映画三連単に組み込んでみたらまさかの今日一番の大当たり。

 

おそらくアメリカ人なら、この映画のオープニングでこれは自分の物語だと感じるのかしら。

ファービー的な可愛いしゃべる人形のおもちゃは、子供にとっては死ぬことのないペット、またはお友達で、親にとっては遊び相手を肩代わりしてくれる便利な存在だ。

少女ケイディは、交通事故で両親を亡くしおもちゃ開発者の叔母ジェマに引き取られる。

ジェマは優秀なおもちゃ開発者だが、仕事一本で生きてきたため子どもと上手に付き合えない。

姪との関係や開発資金を頼まれてもいないAI開発に注ぎ込んだことがバレて追い込まれたジェマは、開発中のミーガンを使ってケイディを守るよう命じる。

 

ホラー映画好きな方は、この展開はもう百万回見たよと飽き飽きするかもしれない。

だが、この映画の素晴らしいところはその辺りのストーリーテリングが非常に丁寧なある。

映画の序盤はなかなかミーガンも登場せず、ひたすらこの二人のうまくいかない新生活を見ることになる。

お互いよく知らないのに一緒に暮らす気まずい空気、歩み寄る努力と失敗の繰り返し。

これはミーガンに頼っても仕方がないという必然性も生まれるし、B級ホラー映画によくある「なんでそうなるんだよ!」感が最小限に抑えられている。

 

人工知能搭載の人型ロボットに育児を任せると言われるとまだSFっぽいかもしれないが、家事や仕事をする間は子供の相手をスマホタブレットに任せている方も少なくないのではないだろうか?

間違いなくミーガンのようなロボがその代わりを担う時代はくるだろうし、ツールが違うだけで本質的には大差がないという示唆も非常にうまい。

そして、本当に怖いのはAIが暴走して殺人マシーンになるミーガンではなく、端末依存に陥った子どもだという目線をしっかり本筋に取り込むところが本質を突きまくっている。

 

怖さはホラー映画入門編程度だが、このジャンルに期待するドッキリシーンは手堅く入ってるし、グロくはないけど嫌なやつはたくさん死ぬので見てる間のストレス値が低く、とても見やすい優しい仕上がり。(犬に死んでほしくない人は見ないで)

上述した通り、この映画の軸は両親に先立たれた女の子と叔母が家族になる「そして母になる」的なしっかりした家族ドラマで、その描写と演出がやたら手厚く丁寧で普通にいい話なので感動してしまった。(真面目か?)

コースターを用いた演出も効いてるし、おもちゃコレクションを嫌々開封するシーンとか、人間の描き方がうますぎる。

やはり面白いホラーには生々しい人間描写が必須......

 

ネタバレなので詳細は伏せるが、クライマックスにやってくるあまりに激アツなオタクガッツポ展開にはワロタ。(あのカメラワークと演出は明らかに「わかってる人」の仕事だし、これができるのあとはギレルモ・デル・トロくらいだろ)

焦らしと解放の緩急つけた演出コントロールがうま過ぎて、普通に立ち上がって歓声をあげたくなってしまった。(これってホラー映画の感想なのか???)

 

ホラー映画をうまく見せるコツって人の認知や興味のコントロールだから、それがうまい人は怖がらせることも熱くさせることも感動させることだって自在にできちゃうんだよね。

カメラワークや編集のコントロールで、それを「演出する」ことが非常に巧みで、本当に凄かった。

 

ホラー映画ではあるけど恐怖だけでなく適度に笑いを取り込み、それでいて馬鹿馬鹿しくはしない制球力。

そこにまさかの胸アツ、感動、普遍的な人生の教訓まで絶妙なバランスで盛り込んだ、ホラーの枠に収まらない素晴らしい娯楽映画でした。

 

子供の健全な成長に必要なのは生きた人間の愛情。

便利なツールもたくさんありますが、あくまでも補助の域に留めておきましょう。

 

ちなみに動員もなかなかに良く、劇場担当者としてもニッコニコです。