ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「マイ・エレメント」(2023)

作品情報

原題:Elemental

監督:ピーター・ソーン

出演:リア・ルイス/マムドゥ・アチー/ロニー・デル・カルメン/シーラ・オンミ

制作国:アメリ

上映時間:101分

配給:ディズニー

年齢制限:G

あらすじ

火・水・土・風のエレメントたちが暮らすエレメント・シティ。家族のために火の街から出ず父の店を継ぐ夢を追う火の女の子エンバーは、何もかもが自分とは正反対な水の青年ウェイドと出会う。世界の広さに触れたエンバーは自分の新たな可能性や本当にやりたいことについて考えるようになる。

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ピクサーには珍しい直球のラブロマンスで描く移民の物語

GWに続き今年は夏休みもなかなかの盛況。

宣伝なしの「君たちはどう生きるか」はしっかり健闘したし、昨年12月からロングランの「THE FIRST SLAM DUNK」は最後まで勢いが衰えないまま優秀の美を飾った。

そして、お盆が終わると引きが早いのも映画館の常。

8月も終わりきらぬ間にいつもの閑散期の様相へ突入してしまいました。

一応弊社はイベントごとも色々あるのでなんとか頑張っていけそうな気がしますが、生存戦略しっかりとしなければ。

 

なんてつまらぬ話はさておき、落ち着いてきたタイミングでようやく見れたのがこのマイ・エレメント。

ディズニーピクサーにしては珍しい直球のラブストーリーで、移民二世である監督のバックボーンが反映された移民の物語だった。

昨今のハリウッド映画において移民が自分たちの物語を紡いだ映画は増えてきており、「バービー」に抜かれるまでは本年度No. 1だった「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」のマリオだって一応移民一家という設定だったりする。

 

両親がアメリカに移住した韓国系移民2世のピーター・ソーン監督はこの映画に自身の経験をたくさん反映させている。

自身は両親の故郷を知らないが保守的な家庭に育っているエンバーはまんま監督の幼少期の反映であり、祖母の「火と結婚しなさい」という遺言はまんま韓国人の祖母に言われた言葉らしい。

ソーン監督はそんな自身の育ちの環境やイタリア人女性と結婚した経験をファンタジー世界に転化した映画を作り上げた。

 

そんな監督のルーツがあるのはもちろんだが、激しい性格の女性とそれを受け止める優男の恋愛という韓国ドラマによくありそうな設定もあってか、韓国では本国に続いて2番目の興収を獲得するスマッシュヒットを飛ばしているらしい本作。

僕はもうそんなに新鮮味もないので「アニメーションがすごいなぁ」とか「移民の話だなぁ」とかそういう見方しかできないし、後述するある点が非常に気にしてしまってそんなに感動しなかったのだが......(というかファンタジー映画なのにちょいちょい感じるアジア人仕草にやはり気がついてしまって...)

周囲の若い子たちは「泣けました〜」と言ってる素直な子たちが多くて、それは素直にいいねって思いました。

 

さて、僕が一番ミスってるなぁと思ったのは配給の宣伝方法。

予告編でやたらプッシュされている「この街では同じエレメントしか交わる事ができない」という大前提のルール。

だが、蓋を開けてみれば火以外の属性はみんな交われないどころかむしろ共生しているではないか。

 

軽くググっただけなので間違ってるかもしれないが、海外でのあらすじは大体「エンバーという保守的な火の女の子が、外の世界や人々を知る事で己の信念が揺らぎ始める」という紹介をされている。

映画を見た今だから言えるが、このあらすじの方が完全に的を得ている。

確かに映画の本質は交流のなかった異文化の人々が交わる事で起きる化学反応をエレメントに置き換えて描写する民族的多様性の物語なのだが、それを「同じエレメントは交われないルールがある」まで行ってしまうのは言い過ぎだったのではないだろうか。

 

実際この刷り込みがあったせいで最初の水と土の共生っぷりで面食らったし、エンバーとウェイドが触れ合うシーンも感動というよりは「なんだ、何も起きないじゃん」という冷めた反応になってしまった。(いや、むしろ「そんなに怖がらなくても何も悪いことは起きないから大丈夫だよ」っていう監督の狙ったメッセージかもしれないが)

監督曰く「ウェイドの沸騰する描写は好きな人と触れ合う時に内から湧き上がる興奮の描写」とのことらしいが、沸騰で消滅する恐怖が先に立ち過ぎてソワソワして集中できなかった。(最後の展開的に多少怖がるくらいは狙い通りなのだろうが)

あとは水と火の話だから成立したけど、これが木と火の恋愛だったらこうはなってないよねとか。

とかく余計な思考が多過ぎて素直に受け取れなかった感じがするので、非常に勿体無い見方をしてしまったなぁと思う。

正直日本の伸びはイマイチなので、このまま沈んでいって終わりなのだろうけど、悪い映画ではないので興味があれば見てほしいかなと思います。

 

あっ、ちなみに吹き替えで見たけど玉森くんは「キング・オブ・エジプト」の悲劇再来とはならず、なかなかいい感じに頑張っていました。

 

吹き替えといえば同時上映の「カールじいさんのデート」は、カールの吹き替えが今年の2月に亡くなられた飯塚昭三さんで驚いた。

2023年8月公開の映画の吹き替えを2月に亡くなった声優さんがやってるスケジュール感にちょっとびっくりしたのだけれど、それよりも飯塚さんの声が弱々しくて、もう当時の飯塚さんの面影を微かに感じるのみ。

晩年の収録というのもあって、本人吹き替えなのにとても同じ人に聞こえないというのはなかなかにショッキングだ。

これを考えると次元大介をなくなる直前に勇退した小林清志さんは凄かったんだなぁと思う次第であります。(ルパン見てる時は「次元おじいちゃんになったなぁ」とか言ってましたが...あれは全然保ってる方だったのだ)

 

とはいえ最後に遺してくれた声とアニメーションには素直に感謝。

忍たま乱太郎メタルギアソリッド、あとほんのちょっとのエロゲ......

いい声をたくさんの作品に残してくださって、最後まで頑張っていただき、本当にありがとうございました。