ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「PLAN 75」(2022)

作品情報

監督:早川千絵

出演:倍賞千恵子磯村勇斗河合優実/ステファニー・アリアン/たかお鷹

制作国:日本・フランス・フィリピン・カタール合作

上映時間:112分

配給:ハピネットファントム・スタジオ

あらすじ

75歳以上が自らの生死を選択できる制度が施行された近未来の日本。夫と死別しひとり静かに暮らす78歳の角谷ミチは、ホテルの客室清掃員として働いていたが、ある日突然、高齢を理由に解雇されてしまい、「プラン75」の申請を検討し始める。一方、市役所の「プラン75」申請窓口で働くヒロムや、死を選んだお年寄りにその日がくるまでサポートをするコールセンタースタッフの瑶子らは、「プラン75」という制度の在り方に疑問を抱くようになる。

www.youtube.com

 

映画は社会への警鐘と希望を照らし示す灯台、そのどちらにもなりうる

是枝組の早川千絵監督が初長編作品とは思えない貫禄の作品に仕上げ、カンヌでも新人賞を受賞した作品。

倍賞千恵子さん久しぶりの主演作品で、圧巻の演技力を全編にわたって見続けられる奇跡のような映画。

 

PLAN75という制度が生まれた日本を舞台にしたディストピアSFなのだが、恐ろしいことに全くSF感がない。

映画が終わって劇場の外に出ても、そのまんま地続きの現実がそこにある事に絶望した観客が後をたたないという噂は、どうやら真実だったらしい。(希望を感じさせる結末ではある、が)

寛容さの皮を被った不寛容が蔓延する現代社会と、この映画の世界はそれほど大差がない、という事なのだろうか。

 

事件や展開に劇的で派手な見せ方をするのではなく、比較的淡々と事が起こり制度に翻弄される人々の姿を切り取る監督の演出センスが抜群に高い。

セリフに頼らず見ている側にシーンを理解させ、考えさせる余白の与え方も絶妙だった。

 

監督としてはこのような制度が生まれかねない現代の社会に対する批判的目線や、劇中で制度の違和感に気づいていく若者の描写に日本の未来への希望を込めたと言うが、一方でこの制度が本当にほしいという感想も年代を問わず映画を観た人からは多数あがっていて、そこもまた映画の中を再現してしまっている。

あまりにもグロテスクすぎて70代以上の人に安易にオススメできないレベルの見事なフィルム。

 

早川千絵監督は間違いなく世界で戦える映画監督の一人で、日本の映画界に残された数少ない希望だ。

海外との合作だからか、編集や音楽、サウンドデザインのレベルも他の邦画とは一味違うので、そういったところも一見の価値あり。