ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

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映画「バービー」(2023)

作品情報

原題:Barbie

監督:グレタ・ガーウィグ

出演:マーゴット・ロビーライアン・ゴズリングアメリカ・フェレーラ/ケイト・マッキノンマイケル・セラウィル・フェレル

制作国:アメリ

上映時間:114分

配給:ワーナー・ブラザース映画

年齢制限:G

あらすじ

ピンクに彩られた夢のような世界「バービーランド」に暮らす住民は、皆がバービーでありケンだった。そんなバービーランドで完璧でハッピーな毎日を過ごすバービーとケンだったが、ある日彼女の身体に異変が起きる。原因を探るため世界の秘密を知る変てこバービーに導かれ、バービーは人間たちが住む世界のロサンゼルスにたどり着く。

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原爆ネタは当然ないが、それとは別で普通に尖った映画だった

いやー凄いですねバービー。

変な炎上してそんなわけないやろって観に行ったら別ベクトルでギンギンに尖った映画だった・・・

 

レディ・バード」「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」ときて遂にバービー人形を実写映画にするビッグバジェット企画を撮ることになるから、「グレタ・ガーウィグってそういう監督じゃないよなぁ」なんて思ってたけど、蓋を開けたらビックリするほど思想強めのフェミニズム映画。

男権社会だけでなくそれに過剰に反応して同じことをやり返すに止まってしまう自称フェミニストに対する痛烈な批判的視線も持ち合わせたアンチフェミニズム映画でもある。

それはいいんだけどこの内容をバービー映画でやるの、バービー好きに怒られてしまうのでは?というくらい「ストーリー・オブ・マイライフ わたしのバービー」って感じの映画だった。

 

冒頭の「2001年宇宙の旅」完コピパロディに始まり痛烈なバービー批判、女性器ネタにマテルの自虐ネタまで何でもござれ。

これを許したマテル社すげえって思ったけど、逆にマテル社だからこれが許されたのかもしれないという気もする。(ググったらそんな会社だった)

 

昨今話題のフェミニズム的思想から生半可(的外れな)フェミニズムに対する強烈な風刺、共感と同情を禁じ得ないケン周りの男性描写の鋭さ。

ケンが現実世界で時間を聞かれて「丁寧語で時間を聞いてくれた!?」って感動するシーンが普段なぜか女性のスタッフにタメ口で話しかけてくるおじさんたちへのカウンターになってると思うんですが、当のおじさんたちにどれくらい気づかれて響いてるんですかね?あれ。

とにかくお見事。

 

そして、特にバス停のおばあちゃんのシーンは格別の完成度で、バービーがあのセリフを言う前に自分の頭の中に同じ言葉が浮かんでいたくらい、画面からバービー目線の世界が空気の色レベルで観客に伝わっているという完璧な演出力。

ヤベえ映画を撮ってるのにそういうところでまたひとつフィルムメイカーとしての上達を見せてくるグレタ・ガーウィグ、一体何者なんだ。

 

世界中の人がバービースタイルで映画を楽しそうに観に行く映像もSNSで話題になっていてたくさん見かけたが、僕の働く映画館でもピンクをつけた外国人のお客さんがたくさん来て、中にはリアルバービーみたいな凄いビジュアルの人もいてびっくり。

あと日本人のお客さんもしっかりピンクをつけてる人が多くて、なんかそれがよかったなぁ。

 

しかしまあ、バービーを使ってこんな映画を撮ってもいいという事があまりにも衝撃的。

こんな過去最高に尖ったグレタ・ガーウィグ映画をポップでキュートでピンクなエンタメ映画のふりをして夏休みに叩きつけるの、これは怒られても仕方がない。

ただでさえ日本でそんなに馴染みがないバービー人形の映画なので引きがない上に、「トイ・ストーリー4」が受け入れられない日本では似たような感じでいい口コミが広まるとは思えないので興行的にもだいぶ厳しい。

 

売れは微妙かもしれないが、マーゴット・ロビーの演技は余りにも素晴らしかったので、そろそろ何か賞に引っかかるのではないだろうか。

映画は非常に素晴らしいので、好きか嫌いかは別にして気になる人はぜひ自分の目でその内容を確認してほしい。