皆さんは「Barbenheimer」(バーベンハイマー)という今話題のネットミームはご存知でしょうか。(僕のブログなんかに気づくくらいアンテナが敏感な人は説明不要でしょうが)
これは7月21日にアメリカで同日公開された2本の大作映画「バービー」と「オッペンハイマー」を合体させた造語で、この2本をハシゴして観る行為の名称らしい。
我らがトム・クルーズも映画業界を盛り上げるため、自らの新作「デッドレコニング」を差し置いて真っ先にこのハシゴを実行し、SNSで「夏は映画館!」と呼びかけていた。
「バービー」は女優で気鋭の女性監督でもあるグレタ・ガーウィグ監督の最新作。
「オッペンハイマー」はあのクリストファー・ノーランが原爆の父と呼ばれたアメリカの科学者オッペンハイマーの人生を描いた伝記映画。
この対極的な2本のハシゴをするギャップの面白さや、どちらも今年ナンバーワンヒットの「マリオ」を追い抜く勢いの大ヒットを見せているらしい。
そもそもノーランがコロナ禍に映画の配信優先を決めた長年のパートナーであるワーナーにブチ切れて関係を経ち、ユニバーサルで制作したのがこの「オッペンハイマー」だ。
そこにワーナーが「バービー」をぶつける構図に大人のいやらしい世界を感じていたのだが、まさか相乗効果でこんなことになるなんて誰が想像しただろう。
「オッペンハイマー」の日本公開日はまだ決まっていないが、「バービー」は今日明日に試写会と来日イベントを敢行し、金曜からはムビチケが発売されるなどまさにこれからというところであった。
そんな大事な時に起きてしまったのが今回のバーベンハイマー騒動。
この盛り上がりを面白がったアメリカのネット民が「バービー」と「オッペンハイマー」の画像をコラージュしたポップで可愛い原爆の画像などを投稿したことが発端だ。
それだけなら一般人の悪ふざけで済んだのだが、これにアメリカの「バービー」公式Twitterが好意的なリプを飛ばすなどで反応してしまったのだ。
ただのハシゴ行為の意味だった「バーベンハイマー」は、一瞬にしてポップに可愛く原爆を茶化した画像を投稿するネットミームにすり替わってしまった。
確かにハリウッド映画を見ていると、アメリカ人は原爆は「ちょっと大きくて強くてかっこいい爆弾」くらいの認識でいるように感じることは多々ある。
ゲームの「フォールアウト」シリーズでもポップでクールな意匠のきのこ雲や核爆弾のモチーフが出てくるが、アメリカの原子力技術の博物館などでもそんなポップでクールな原爆シャツのお土産はよく売っている。
そもそも「バービー」米公式のリプライも核爆発のネタ画像に「忘れられない夏になるぜ!」という最高レベルの煽りをナチュラルに繰り出している。(おそらく原爆投下や終戦の時期なんて知らないだろう)
今話題の「ヴァチカンのエクソシスト」のプロデューサー曰く、アメリカの若者の歴史認識はそんなものだという。
さて、記事タイトルの話なんですが。
僕が劇場でいつも通り仕事をしていたら、お客さまにバーベンハイマー騒動とは何かと、どうしてこんなことになっているのかと問われた。
僕はそもそも公式のムーブメントでないことや、そこに公式が乗ったせいでこうなったことなどを告げたが、「楽しみな映画だったがもう観る気にはなれない。クレーム入れたいけど連絡先がわからないからおたくの映画館でワーナーの人に会えるなら怒ってると伝えてほしい」と言われたのだ。
他の映画館にも電話や窓口でこんなご意見が届いているのだろうか。
たかがネットミームとはいえここまで広まっているのかと、そしてやっぱりそれで観る気がなくなる人はいるよなと僕も認識を改めた出来事だった。
そして7月31日の夕方、ワーナー・ブラザース・ジャパン公式は声明を出し「極めて遺憾。本国にしかるべき対応を求める」と強めの抗議の意思を示した。
正直ここまできちんと対応するとは思ってなかったので驚いた。
下手すりゃクビになるかもしれないのにちゃんと本社にクレームを入れてくれるのは素直に評価できる。
そして、アメリカの本社は各メディアにプレスで謝罪文を掲載し、Twitterの投稿はひっそりと削除された。
「バービー」米公式Twitterが「ツイートという形」での謝罪は行っていないので、現在の盛り上がりに水をささない程度に最低限の謝罪の姿勢は見せておく対応に留まっているとも言えるが、まあ本当に最低限とはいえ態度は示した。
これを受けて変な形で明日の監督プロデューサー登壇の来日イベントに注目が集まることになるだろう。
夕方のニュースでも本件は報じられていたし、話題にはなるだろうが残念ながら集客にはつながらない話題だろうしこの産業で食っている身としてはなんとも悲しい。
僕はまだどちらも観てないが、「バービー」も「オッペンハイマー」もどちらも素晴らしい映画であることは間違いないと思っている。
当然「バービー」は核爆弾なんて全く関係のない映画だし、「オッペンハイマー」だってこの騒動のセンシティブさに比べたら至ってまともな内容ではないだろうか。(流石に)
言ってみればこのバーベンハイマー騒動は、2つの素晴らしい映画とその制作者が全然関係ない一般人たち(とアホなTwitter担当者)のせいで不要な悪い印象を植え付けられてしまったひどい貰い事故だと思う。
僕はもちろんどちらの映画も楽しみに待っているし、映画館で食っている者としてはもちろん売れてほしい。
だが興行側の人間としても、もうこの映画を安易に観に来てほしいとはいえなくなってしまった。
今回の一件でこの映画を見たくなくなったという人の気持ちもよくわかるし、そういう人はもう見に行かなくてもいいと思う。(ボイコット呼びかけるのだって自由だ)
ホロコーストや9.11の映画で同じような事は絶対やらないのに核兵器でネタに走れちゃう時点で、アメリカにおけるアジア人に対する理解度なんてその程度なのだから、日本の興行が伸び悩む結果を見せるのもいい薬なのではないだろうか。
ピンクでポップでハッピーな映画のはずなのに、核兵器の悪ふざけで変な印象つけられちゃって。
ノーランの邪魔をしようとしたワーナーにバチが当たったのか。(ここは個人的妄想)
まったく、アメリカのTwitter担当者は余計なことしれくれちゃってよ〜〜。
世界規模のバカッターですよ。
映画産業に被害を与えるやつはトム・クルーズに怒られてくれ。(コロナのブチ切れトムの件)