作品情報
監督:今井一暁
出演:水田わさび/大原めぐみ/かかずゆみ/木村昴/関智一/平野莉亜菜/菊池こころ/チョー/田村睦心/賀屋壮也/加賀翔/芳根京子/石丸幹二/吉川晃司/Vaundy
制作国:日本
上映時間:115分
配給:東宝
年齢制限: G
あらすじ
学校の音楽会に向けて苦手なリコーダーの練習をしているのび太の前に、不思議な少女ミッカが現れる。のび太の奏でるのんびりした音色を気に入ったミッカは、音楽がエネルギーになる惑星で作られた宇宙船「ファーレの殿堂」にドラえもんたちを招待する。殿堂を復活させるために必要な音楽を演奏する音楽の達人を探していたミッカのために、ドラえもんたちは音楽を奏でるが、そこへ世界から音楽を消してしまう不気味な生命体が迫ってくる。
音を楽しむと書いて「音楽」
フィルム時代から音の良さに定評のあった映画ドラえもんシリーズ。
デジタル制作に変わってから少し変わった時期もあったが、ここ数年のドラちゃんはまたその輝きを取り戻し始めている。
そして今年のドラちゃんのテーマは「音楽」とあって、例年にも増して気合の入ったクオリティになっていた。
基本的な作りはもちろん、見せ場の歌唱シーンの音の伸び、高音から低音まで過不足なく出す絶妙なコントロール、立体的なサラウンド。
音に敏感な子供がメイン層の作品だからこそ難しいところをクリアしながら、更にその先のクオリティに到達している。
序盤の見せ場であるミッカの歌唱シーンやクライマックスのオーケストラなどで見せる音楽の力が凄まじい。
物語は母星が滅び逃げ延び力尽きた難民船を音楽の力で蘇らせるというもの。
エネルギーが切れた巨大なコロニーで音楽を奏で、クリアすると新しいエリアとそこを仕切る住民が開放され、物語の謎も少しずつ明かされていく。
なんだかオープンワールドゲームのような構成だが、今時の子供には馴染みやすいプロットなのだろうか。
音楽でエネルギーを生み出す星の技術のためにのび太たちが音楽を奏でるのだが、この映画で良いと感じたのは決して巧さが指標になっていないところだ。
のび太たちは「音楽家ライセンス」という、楽器が持ち主の技術に合わせて指導を行ってくれる道具を使う。
最初はビギナーから始まるが、今の自分にできる範囲で音楽を奏でてエリアを復活させるとライセンスに書かれたランクが上がる。(ここも実にゲーム的だ)
楽器の上達に近道はなく、地道な努力あるのみ。
それを少しずつ達成していく楽しさを、そして何より下手でもなんでも奏でた音楽には力があり、音楽を奏でることは楽しいという演出を徹底していた様に思う。
音を楽しむと書いて音楽と読む。
音楽をテーマにした今年のドラえもんは、音楽とそれに触れる子供に真摯に向き合い、映画としての音響技術も突き詰めた素晴らしい劇場推奨作品でした。
可能なら音の良さに定評がある劇場での鑑賞を推奨します。
さて、僕が鑑賞したのは土日の家族客に溢れる昼間の回。
売店は混雑し本編が始まってからもゾロゾロ入ってくるし、始まる前から始まった後もずーっとどこかから「ママのとなりがいい〜〜〜〜〜〜」と泣き叫ぶ子供の声が聞こえてくる。
映画館のマナーでは縛れない子供に溢れる劇場は、音が素晴らしい映画を味わうにはおよそ相応しくない環境かもしれない。
それでも、見ようと思えばいつでも映画を見られる僕があえてその環境を選んだのは、子供たちの反応を肌で感じるのは実に得られるものが多いからだ。
もう大人の自分には何も感じないようなあるあるシーンでも、子供は本気で笑うし驚くし喜ぶのだ。
のんびり呑気なのび太の「の」の音は毎回大爆笑だし、ミッカの可愛い仕草や面白いひみつ道具の登場にはいちいち嬉しそうにする。(ハッスルねじまきでのび太が宿題を高速で片付けるシーンはここ一番の爆笑の渦が巻き起こっていた)
そんな子供たちの出す音もまた、この映画を作り上げる音のひとつだと僕は思っている。
ネタバレは避けるがクライマックスのとある無音のシーン、僕が観た回ではそんな子供たちすら映画に釘付けになり、完全な静寂が劇場を満たしていた。
その時、僕はこの上ない感動を覚えたのだ。