作品情報
原題:Interstellar
監督:クリストファー・ノーラン
出演:マシュー・マコノヒー/アン・ハサウェイ/ジェシカ・チャスティン/ビル・アーウィン/エレン・バースティン/マイケル・ケイン/ジョン・リスゴー/マッケンジー・フォイ/ティモシー・シャラメ/ケイシー・アフレック/ウェス・ベントリー/ジョシュ・スチュワート/トファー・グレイス/ウィリアム・ディベイン/デビッド・オイェロウォ/コレット・ウォルフ/マット・デイモン
制作国:アメリカ
上映時間:169分
配給:ワーナー・ブラザース映画
年齢制限:G
あらすじ
世界的な飢饉や地球環境の変化により、人類は滅亡の一途を辿っていた。元パイロットのクーパーは、ある日娘の部屋で不思議な重力波の現象を発見する。それがある座標を示している事に気づいたクーパーは、そこでかつての恩師であるブランド教授と再会する。教授は秘密裏にNASAを復活させ、居住可能な惑星の探査を行っていた。人類、そして家族の未来を守るため、クーパーは未知なる宇宙の果てへと旅立つ。
フィルム上映、行ってきました。
はい、行ってきました。
ワーナー創設100周年を記念して、クリストファー・ノーラン監督の「インセプション」「インターステラー」「ダンケルク」の35mmフィルム版の特別上映が12月1日から109シネマズプレミアム新宿で行われている。
今回は映画の感想というより、「噂の」映画館に行ってきた感想の記録の側面が大きいです。
この109シネマズプレミアム新宿は2023年4月14日、歌舞伎町にオープンした109シネマズ系列の新業態。
最も印象的なのは全座席が高級シートでAシートが4500円、Sシートが6500円の均一料金という衝撃の強気設定。
映画ファンたちに衝撃を与えた事は記憶に新しいのではないか。
詳しくは以下をご覧あれ。
https://109cinemas.net/premiumshinjuku/special/
いつも新宿に行くときは歌舞伎町のカオスに軽く引きながらTOHOの建物を上がり、発券機のあたりから街を見下ろす。
汚い街とそこに住む人々を見下ろしながら、さながら安全地帯から地獄絵図の世界を見つめるゾンビ映画の登場人物のような気分だ。(いつまで経っても中学生の心を忘れない)
今回はそのTOHO新宿を華麗にスルーし、オーバードーズしてそうなトー横キッズたちを回避しながらお隣の東急歌舞伎町タワーへ。
シネシティ広場の雰囲気はほとんど大阪西成のそれだった。
て、手ぶれがすごい...
中に入ると新宿カブキホールというギラついたネオンで目がおかしくなりそうな飲食スペースがお出迎え。
なんだか洋画に出てくる変な日本にこちらから寄せていった感がしなくもないが、観光客にはウケが良いのだろうか。
↓中はこんな感じ
https://tokyosanpopo.com/archives/66700
3階はワンフロア丸々ゲーセンで、「ジョン・ウィック2」のクライマックスに登場した鏡の間の様なネオンと鏡に囲まれた方向感覚喪失空間だ。
客層的にもまだ歌舞伎町のカオスがここまでは流れ込んできている。
さらに上がるといよいよダーティな街の雰囲気は消えて高級感が顔を出す。
空気感の振り幅の広さに頭がくらくらするが、仕方がない。
ここは歌舞伎町のギラギラな側面と、高級映画館や一泊300万円のホテルを内包する混沌の魔塔なのだ。
フィルム映写機は10階のスクリーン8にある。
僕は紙のチケットを取っておくタイプなので券売機で発券。
通常の映画館は15分前くらいから入場が始まるが、ここは1時間前入場でチケットを持つ人専用のラウンジでくつろぎながら待つことができる。
せっかくなので、ピッタリ1時間前に来てみた。
中は外から見えないようになっている。通路を抜けると...
高級ホテルのようなラウンジに到着。
静かで落ち着いた照明の空間で、高そうな椅子に座って連れと談笑しながら映画の開始時間を待つ。
高額なチケット代には飲食代が含まれており、ポップコーンとドリンクは食べ飲み放題なのだ。
レジにはドリップコーヒーのパックがあり、これはなんと持ち帰り自由だった。
ウォンカ公開記念で無料のチョコ菓子トッピング(しみチョコ)がついていた
ポップコーン豆には「バタフライ」「マッシュルーム」と2タイプあり、塩などはバタフライ、キャラメルなどコーティング系の味はマッシュルームタイプが味がつきやすく良いとされている。
画像をよく見るとわかるが、ここはポップコーンの種類で豆を使い分けているようだ。
更に、併設のバーで追加課金するとお酒やホットドッグ、ポテトを食べることもできる。
せっかく4500円払って入ったので(次いつくるかもわからないし)、1100円課金してホットドッグを食べてみた。
手ぶれ&暗くてわかりにくいが、なかなか立派なホットドッグ。
ソーセージのデカさと重さに面食らったし、小さいパンと同じくらいの質量かと思うレリッシュと粒マスタードが乗っている。
ホットドッグが引き出し型のケースに入ってたり、おしぼりがありえんくらい分厚かったりいちいち高級感を出してくる。
ちなみにQRでオーダーすることもできる。
原理はわからないけど多分なんとかして注文者を特定して持ってきてくれるんだろう。
注文場所がロビーか劇場内か選ぶ仕様だったが、これ劇場内で頼むことってあるんだろうか・・・
レジのコーヒーに続いてトイレにもアメニティが完備されている。
爪楊枝やマウスウォッシュ、更にくもりどめ付きの使い捨てメガネ拭きまで置いてある。
あらゆるストレスを排して映画を観ろ、という劇場からの強い意思を感じる。
そしていよいよ上映開始時間が近づいてきた。
よくある入場開始のアナウンスはなく、一瞬照明がフワッと暗くなり中央のモニターから音楽が流れる。
画面を見ると入場時間が表示されているのだが、またすぐおしゃれな映像に戻った。
映画館で働いてる身からすると、ここまでお客さんを信じきった最低限の案内にするって思い切りが凄いなと。
高い分客層もしっかりしてるという認識なのか。
僕は新宿のキャバ嬢連れてくる成金のおじさんがたくさん来て思うような運営にはならないだろうくらいに思っていたのだが...
大好きな映画の大好きなポスター。
フィルム上映に関する案内。
胸が躍る。
座席数は70席程、この映画館は多くても100席弱のスクリーンしかない。
映画館も飛行機も1席あたりの金額を下げるため、通常なら薄利多売の精神で可能な限り椅子を詰め込むのだが、ここは高額な分、席の間隔を両隣の人が視界に入らないほど開けている。
隣席の客と取り合いにはならない専用ドリンクホルダーや、食べ物を置くスペース、傘立てや荷物置きまで全てのシートに完備されている。
座席はリクライニング式で、ヘッドレストもなんだかちゃんと馴染む。
僕は映画館のシートでしんどくなるタイプではないが、これならいくら長くても快適に過ごせるだろうなと思った。
さて、肝心の上映の方だが、僕は「インターステラー」がだいぶ好きだ。
今回、絶対使うことはないと思っていた4500円の高級映画館に来たのも、35mmフィルムの「インターステラー」という他では観られない付加価値があったからだ。
大学生の頃にBlu-rayで観て心を鷲掴みにされて以来、「ダンケルク」上映記念のIMAXリバイバル上映では品川に足を運んだ。(当時まだグランドシネマサンシャインはなかった)
「TENET」公開記念のリバイバルの際は池袋のグランドシネマサンシャインがあったおかげで、念願のGTレーザーでのIMAX上映でフルサイズを拝むことが出来た。
結果として段階的にIMAXの画角が広くなる体験で2度感動できたのはラッキーだったと思う。
そのgdcsの「インターステラー」が凄すぎて、もう映画館で観ることはないと思っていたがここに来てまさかフィルムが来るとは...
フィルムの状態は9年前の作品とはいえ流石に使用頻度が高いのか、それなりにボロくてそこがまたよかった。
CGを使わないことで有名なノーランの映像が埃と傷まみれで全体的に青味がかった入った古びたフィルム独特の味わいで映写される。
2014年の映画とは思えないレトロ映画っぽさは一周回って記録映像のような味わいにすらなっていて、これまでにない「インターステラー」の印象を受ける。
IMAXはパリッとしたビビッドな映像と巨大な画角の宇宙に飲まれそうな感覚、圧倒的な臨場感の劇場体験。
フィルム版は70年代に地球を救った人々の記録映像を客観的に観ているような...
そんな全く別の映像体験になっていた。
観終わるまで気がつかなかったのだが、ここの映写クオリティは確かに高い。
最近音響設備の良さを売りにする映画館は大変増えている。
単館系やミニシアターなど映画好きが運営しているならまだしも、大手シネコンチェーンが映写クオリティを気にするなんてあり得ない時代を知っているので、劇場側が映写クオリティをお客さんに伝えようと試み、お客さん側もそういったこだわりを調べて映画を観る、聴き比べで複数回観てくれる、という事が当たり前になった昨今の変化には大変驚かされた。
とはいえ、〇〇上映と謳っている大手シネコンチェーンのほとんどは、その実調整は行っておらずボリュームを捻り上げただけか、劇場のチューンはしても作品ごとの調整はしておらずクオリティはまちまちというものばかりで、実際に観て回ると別に良くはないところが多い。
109シネマズプレミアム新宿の公式サイトではオカルトオーディオオタク的な「ケーブルまで設備にこだわってます!」的な説明があり、いうても109系列なので正直全く期待はしていなかった。
僕は「スピーカーには〇〇を使用!」という謳い文句はごくごく一部のオタクには伝わっても大半のお客さんには興味のない話なのでなんの意味もないと思っているので、ズレたことしてる映画館だなぁと正直思っていた。(僕個人としては非常に興味深い話なのだが)
「良い音」なんて結局好みの問題で絶対的正解はない非常に難しいものだが、僕の個人的見解での「良い音」の定義は「最初から最後まで良かったことを気づかせない、何も思わせない音」だ。
大手チェーンで映画を観るとまず予告で音がうるさい、もしくは小さい。
本編が始まっても尖った音が耳に刺さる、疲れる、大きい音で驚かされる。
これはまず良くない。
池袋のIMAXだって映像は素晴らしいしサラウンドがいいのも確かだが、高音が刺さって大きな音はしんどいので決して良い音だとは思わなかった。
しっかり音のメンテナンスをして上映している映画館だと何も考えずに最後まで観ることはできるが、「低音が増してて良かった」「歌声の響き方が素晴らしかった」というのもまた、そういった感想が出る時点で何かしらの印象や思惑が脳によぎる余地を与えているので映画の音として完璧ではない、とまで言ったら少しいじわるだろうか。
映画が始まる前、坂本龍一先生の生前の映像が流れ、「多分、世界で一番音の良い映画館になりました」とこだわりを語る。(作り手側のこだわりを語る手法はプラシーボ的にも、着目点を素人でも理解できるという意味でも非常に効果的なので上手いなと思った)
僕はここの音が世界一かと、そこまでは断言しないが、この35mmフィルム版「インターステラー」の映写においては、音が大きすぎることもなく小さくて困ることもなく、それでいて迫力はしっかりあり耳が疲れることもない、それが良いということにほとんど終わる瞬間まで気づかなかったほとんど完璧な映写だったと思う。
長く書きすぎて疲れてきたのでそろそろおしまいにしよう。
一本の映画に4500円払うなんて酔狂な人間が果たしているのか、そんなふうに思っていたがこの体験はなかなかどうして思ったより悪くなかった。
浴びるように観る普段の映画はなるべく安く観るに越したことはないが、今回のようにマイベストに入る映画の貴重なリバイバル、他ではやらないイベント上映。
そんな特殊な映画を観る場合、ラウンジでのくつろぎの時間からアメニティ等のホスピタリティ、映写のクオリティに至るまで全ての体験を通した金額として4500円は全然出せるものだった。
もしこの映画館に興味があって、これだという作品の上映がブッキングされたら一度は行ってみる価値は十分ある。
「インターステラー」は1週間の限定上映で全ての回が0時の予約開始と同時に満席になっていたが、この度さらに1週間の追加が決定したよう。
行けてなかった人は、これを気に入ってみてはいかがでしょうか?