ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

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映画「ブリグズビー・ベア」(2018)

作品情報

原題:Brigsby Bear

監督:デイブ・マッカリー

出演:カイル・ムーニー/マーク・ハミル/ジェーン・アダムス/グレッグ・キニアクレア・デーンズ/マット・ウォルシュ/アンディ・サムバーグ/ミカエラ・ワトキンス

制作国:アメリ

上映時間:97分

配給:カルチャヴィル

年齢制限:PG12

あらすじ

有毒ガスで人が住めなくなった世界から隔絶されたシェルターで両親と3人で暮らす25歳のジェームス。赤ん坊の頃からシェルターの世界しか知らない彼は毎週届く教育ビデオ「ブリグズビー・ベア」が唯一の娯楽で、その世界観の研究に没頭する日々を送っていた。そんなある日、外の世界から警察がやってきて両親は逮捕され、両親だと思っていた男女は誘拐犯だった事を知る。警察に保護され「本当の両親」と暮らし始めたが大好きな「ブリグズビー・ベア」の続きをもう観られない事を知り、続編映画の制作を決意する。

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創作を愛し救われた全ての人へ贈る、突飛な設定の普遍的なメッセージ

「パーム・スプリングス」「チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ」を手掛けたコメディグループ「ザ・ロンリー・アイランド」製作なだけあり、突飛な設定で興味を惹きつけ万人に刺さる手堅い普遍的な物語を届けるやり口が相変わらず上手い。

 

両親だと思っていた誘拐犯に25年も監禁され、教育ビデオ「ブリグズビー・ベア」だけを与えられて生きてきた超絶ピュアな青年が、突如外の世界に連れ出されたらどうなるか。

想像しうる事態はだいたい起きるのだが、ほぼ初対面の妹や、数百話ある「ブリグズビー・ベア」を全話見て「スタートレックみたいじゃん!」とハマってくれる初めての友達、俳優志望だった刑事など、とにかく周りにいい人しかいない優しさが溢れる世界で映画の手触りは非常に心地いい。

 

人の人格や倫理観は思春期までに強い影響を受けたもので醸成されるという。(僕の場合は子供向けの特撮やアニメ番組がそれだ)

ジェームスにとっては偽の父によって作られた「ブリグズビー・ベア」の姿や価値観が彼の全てであり、行動や選択、思考の全ての指針の基準になっているので、さまざまな人がいる外の世界に彼は当然戸惑う。

そんな彼が世界に折り合いをつけて生き方を見つけていくシンプルに感動作だ。

 

物語のメインは主人公と仲間達の映画制作だ。

偽の両親が逮捕され「ブリグズビー・ベア」の供給を絶たれてしまい、あの作品が人生の道標でだった彼は道を見失ってしまう。

偽の父に代わり「ブリグズビー・ベア」の続編劇場版を制作することによって彼の魂は救済され、進むべき道を再発見し大きな子供からひとりの大人へと成長していく。

 

主人公のようにフィクションに囲まれて育ち愛する人、フィクションを作る人に対する巨大すぎる愛と賛辞。

監督の映画愛やVHS、古い特撮愛がダダ漏れ

現実世界は何かと厳しいが、監督はきっとこんな優しい世界があればいいのにと思って映画を作ったのだろうか。

 

偽の父役のマーク・ハミルも話題作りの起用ではなく、彼の俳優としてのキャリアやその存在が持つイメージがしっかり意味を持って映画のメッセージを補強している。

プロデューサーには名作請負人のフィル・ロードクリストファー・ミラーもクレジットされているのでまあ間違いない。

 

もしまだ見たことがないあなたはラッキー。

世界はまだ知らない傑作で満ちあふれているということだ。