ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「ジョン・ウィック コンセクエンス」(2023)

作品情報

原題:John Wick: Chapter 4

監督:チャド・スタエルスキ

出演:キアヌ・リーブスドニー・イェン/ビル・スカルスガルド/ローレンス・フィッシュバーン真田広之/シャミア・アンダーソン/ランス・レディック/リナ・サワヤマ/スコット・アドキンスイアン・マクシェーン/マルコ・サロール

制作国:アメリ

上映時間:169分

配給:ポニーキャニオン

年齢制限:R15+

あらすじ

粛清の包囲網から逃れたジョン・ウィックは、裏社会を支配する主席連合から自由になるべく立ち上がる。連合のグラモン侯爵はこれまでジョンを守ってきたニューヨークコンチネンタルホテルを爆破。ジョンの旧友である盲目の暗殺者ケインを雇いジョンの元へ差し向ける。そんな中、ジョンは日本の友人シマヅに協力を求めるため、大阪コンチネンタルホテルを訪れる。

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映画におけるアクションの在り方すら変えるチャレンジ精神(究極の開き直り)

僕は一体何を観たのか。

これは本当に映画なのか。

ソリッドなドラマが展開した1作目は別として、以降はアクションムービークリップをわずかなドラマで繋いだシリーズという認識だったので前作の2時間11分でもちょっと長すぎるだろと引き気味だったのに、今回はまさかのほぼ3時間。

そんなにやることある?

ほとんどアクションシーンになるの?

蓋を開けたらそのまさか。

 

「ミステリ」「プリキュア」が勢いを見せつける秋の映画館に颯爽と現れたキアヌ・リーブス主演大人気シリーズ第4弾。(第4弾!?)

「スパイダーバース」同様映画業界に多大な影響を与え多くの子どもたちを生んだ、僕も大好きで毎回楽しみにしているアクション映画の歴史を切り開くシリーズだ。

続編を作るたびに市場が小さくなっていくのが映画の常だが、アメリカにおける本シリーズはなんと常に右肩上がり。

日本も今回は気合が入っており、ムビチケ特典や劇場グッズが劇中アイテムっぽさを出したものが多く、かなり観客のツボをついたわかってる作りだったのもかなり好印象。

 

第1作でガンアクションの魅力を開拓。

第2作ではカーアクションを見事に取り込み、ガンアクションの世界も大幅に拡張。

第3作では打って変わって格闘中心のアクションで「映画」としていいラインの限界に挑戦。

2時間50分という強気の尺で一体何をするのかと思ったら、1+2+3くらいの物量のアクションを延々やるという単純明快かつ狂気の沙汰を見事に披露。

最初から最後までクライマックスのギア全開アクションを誇張なしにほぼ全編でやってるから頭がおかしい。

これドラマパートは正味何分???

 

着せ替え人形みたいにスーツがコロコロ変わってその全てが似合いすぎる許し難い悪党侯爵を演じたビル・スカルスガルドだけでも十分なのに、脇を固める濃ゆい殺し屋たちにドニー・イェン真田広之スコット・アドキンス、マルコ・サロールという世界の動けるアクションスターが大集合。

ひとつの映画に1人いればいい人が5人もいて好き放題暴れる夢のような映像が3時間も観られるの凄すぎる。

20回くらい「やりすぎだろ」という言葉が頭をよぎる。

謎にウェスタン風味なシャミア・アンダーソン演じるミスターノーバディも良かった。(キャラが交通渋滞してて絶対これ以上増やす必要ないのに、それでもいい味出てた・・・)

 

日本人的に大注目の大阪パートは割と現実に忠実なサイバー道頓堀に六本木の建物を使ったコンチネンタルホテル、びっくりするほど中国風味のキッチンで繰り広げる大満足のアクションからのサイバー梅田駅とニューヨークの地下鉄みたいな座席の大阪メトロ。

「コウジ...メイワクカケテスマナイ...」

「なるべく多く殺していってくれ」

「オス」

などのやたらパワー溢れるキアヌ日本語セリフも炸裂。

いろんな意味で面白すぎる約1時間ほどの大阪パートだったが、冷静になって考えたらこの部分って脚本から丸ごと省いても何の問題もない・・・?

いやだって、これがなくても砂漠の首長を殺したところからコンチネンタルホテル爆破からのニューヨークの墓で「ルスカ・ロマに許してもらえ」のくだりに繋いでも全然問題ないよね?

そしてこのパートがなければ普通の映画の尺で作れた訳で。

つまりこのシーンは2時間50分という尺の衝撃で作品に新規性と興味を持たせる意味合いがあるのか、それとも3にオファーを出すも出演できなかった監督が大ファンである真田広之への義理を果たすために作られたパートなのか。

そのためだけだとしたら金も人手も大掛かりすぎるし映画としてギャンブルしすぎなのだが・・・いやそのくらいクレイジーなことは平気でやってしまうかもしれんと思わされてしまうのがジョン・ウィック

 

そしてあれだけ心配していた長尺化、見どころがアクションしかないという嫌な予感。

何が凄いってこれは全て的中したのに、それを上回る面白さでねじ伏せられたこと。

ゾンビみたいに湧いてくる刺客を一体一体丁寧に満身創痍で振り払っていく映像を3時間(ほとんどマジで3時間)ずっと観るだけなのにこんなに飽きずに観られるものなのか。

冗長とか流石にしんどいとか感じる人がいるのもわかるけど、僕は純粋に「ずっとアクションしてるだけなのにこんなバリエーションで3時間観せ切ることができるのか・・・」という感心しかなかった。

 

どのシーンもよく差はつけられないが、特に印象に残ったのはドラゴンブレス銃と開幕からありえんくらい車に轢かれて笑いを禁じえない凱旋門カーチェイス前後のくだり。

そしてクライマックスの神話の試練かのような階段バトル。

人でいうと宇宙最速を取り戻したドニー・イェンと、喘息デブになりきったスコット・アドキンスの美しい回し蹴り。

彼を知らずに観た人は急にジョン・ウィックを圧倒し始めてさぞ驚いたのではなかろうか。

 

ちょっと映画として開き直りすぎだろうと思うところもあるが、豪華すぎるキャストと自らあそこまでレベルを高めたアクションシーンをさらに高みに上げていく飽くなき挑戦心。

ハリウッドにおけるスタントマンの地位を向上させたいとロビー活動にも勤しむチャド・スタエルスキ監督を知っているからこそ、こういう映画を撮ってもそこには信念を感じることが出来て愛さずにはいられない。

業界を変える力がこのシリーズにはあると信じてる。