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映画「遺灰は語る」(2023)

作品情報

原題:Leonora addio

監督:パオロ・タヴィアーニ

出演:ファブリツィオ・フェラカーネ/マッテオ・ピッティルーティ/ロベルト・ヘルリッカ

制作国:イタリア

上映時間:90分

配給:ムヴィオラ

年齢制限:PG12

あらすじ

1934年にノーベル文学賞を受賞した文豪ルイジ・ピランデッロは自分の遺灰を故郷シチリアへ移すよう遺言を残すが、独裁者ムッソリーニプロパガンダのため遺灰をローマに留めるよう命じる。戦後、遺灰はようやくシチリアへ帰還することになり、シチリア島特使がその重要な役目を命じられるが、道中様々なトラブルが起きる。

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91歳の巨匠が達観の境地で描く遺灰の旅路

イタリアのノーベル賞作家ピランデッロの遺灰をローマからシチリアに輸送するお囃子と、ピランデッロの短編小説「釘」を映像化した二部構成。

原題の"Leonora addio"はピランデッロが執筆した短編小説の題名だが、本作とは一切関係ない。

モノクロで遺灰の旅路を描く約70分の第一部は、ピランデッロの遺灰の扱いをもとにした完全なフィクション。

残りの20分が第二部「釘」で、これはピランデッロが死の20日前に執筆した作品の映像化となっていて、実際にハーレム地区で起きた少年による殺人事件にインスピレーションを受けたらしい。

 

本作は様々な人の手を渡り歩く遺灰が主人公の映画だが、馬の持ち主が次々に変わるスピルバーグ作「戦火の馬」に近いものを感じる。

本人はただ死んだら故郷に戻りたいと思っただけだろうに、権威ある人になったばっかりに死後もその影響力から色々ままならなくなってしまう様子に可笑しさを覚えつつ少し考えさせられる。

冒頭から「2001年宇宙の旅」オマージュに始まるが、本作はタヴィアーニ兄弟の映画史振り返りとも言うべきセルフオマージュがたくさんあるらしい。

タヴィアーニ作品は全く見た事がないので、今後観ていきたいと思う。

 

撮影監督のパオロ・カルネラ、シモーネ・ザンパーニが優秀なのかモノクロならではの色彩効果が見事に表現されていて、やはりこの光と影の陰影はモノクロならではの味わい。

枢機卿に耳打ちするシーンはアングルといい芝居といい、胸にグサッと突き刺さるインパクトがある質感のある映像が撮れていたし、葬儀中に笑っちゃうおじいちゃんも印象深い。

小難しいことは抜きにして「これでいいんだよこれで」っていう達観具合が画面から伝わってくるのだが、適当にやってるわけではなくそういう心に残るシーンがきちんとあるところが巨匠のなせる技なのか。

 

クライマックスで器に入りきらず紙の上にこぼされた遺灰をこっそり持ち帰り、シチリアの海に撒いたところでモノクロームの画面が色づく演出。

あれもまた大変良かった。

僕の遺灰もどこかに撒いてほしいと思うほどにロマンがあった。

 

短編の方は散文的で表現を極限まで削ぎ落としており、正直よくわからない。

なぜ女の子を殺したのか、なぜ喧嘩している二人の女の子の小さい方を殺したのか。

なぜ生涯を通して彼女の墓に通い詰めたのか。

何も理解できず苦味と困惑しか残らないのだが、ピランデッロを知ってる人は「うんうん、これこれ」みたいになってるのだろうか?

 

僕にはさっぱりわからないが、キネ旬の記事で見たタヴィアーニ監督と出演者が楽しそうに映ってる写真で幾分か気持ちは晴れた。

それだけ自分があの映像に影響を受けてたってことなんだから、やっぱり監督の演出力や俳優の芝居が良かったってことなんだよね、きっと。

 

https://www.kinejun.com/2023/02/24/post-21856/