作品情報
原題:Ready Player One
出演:タイ・シェリダン/オリビア・クック/ベン・メンデルソーン/リナ・ウェイス/サイモン・ペグ/マーク・ライランス/フィリップ・チャオ/森崎ウィン
制作国:アメリカ
上映時間:140分
配給:ワーナー・ブラザース映画
年齢制限:G
あらすじ
2045年、貧富の格差が激化し荒廃した世界に住む人々は救いを求めてVR世界「OASIS」に入り、理想の人生を楽しんでいた。ある日、OASISを開発した大富豪ジェームズ・ハリデーが死去し、OASISに隠された3つの謎を解明した者に莫大な遺産とOASISの運営権を明け渡すというメッセージが発信され、世界中の人々が謎解きに躍起になる。17歳の孤独な青年ウェイドもそれに参加し、謎めいた美女アルテミスと1つ目の謎を解き有名人になるが、ハリデーの遺産を狙う巨大企業IOI社から狙われるようになる。
70歳のおじいちゃんから若者へのオタク讃歌とネットリテラシー講座、そして現実世界の大切さを学ぶ
5年前、サブカルコンテンツが世界規模で集まった究極のスマブラみたいな内容で話題になった映画だが、その引用に終わるだけの単純な映画をスピルバーグが撮るはずがない。
「BTTF」のデロリアンやキングコングからキティちゃん、ガンダム、ロボコップなのに1秒くらいしか映らないなど贅沢すぎるIPの使い方で情報が氾濫する映画制作は、自身もオタクの申し子と呼ぶべきスピルバーグにしかできない大仕事。
厳しい現実から逃れる最後の理想郷としての仮想現実空間を、金のため我が物にせんとする強欲な巨大企業。
創設者はその資産をゲームのイースターエッグ(隠し要素)としてオタク、引いては一般大衆にしかわからない形で世界のどこかに隠した。
この「資本主義者VS大衆(オタク)」の構図をオタクにしかわからないネタで謎を解いて会社員にドヤる映画として観たらだいぶ痛くて仕方がないのだが、かつては侮蔑の言葉だった「オタク」もすっかり市民権を得た昨今の状況を見れば、80sを生きたオタクが書いた脚本なのでそこは温かい目で見守ってあげてほしい。
まあ僕は「オタク」が「膨大な知識量とそのジャンルに対する熱量が凄まじく他の全てを犠牲にしているヤベーやつ」という意味でなく、単なる「アニメを見る大人」という意味に変容しただけ、と思うタイプの人間ですが。(めんどくさいですね)
パッとしない主人公が持ち前のオタク知識で輝くインターネッツ。
無垢な少年少女や現実でチャンスが与えられない人たちにも平等に場が与えられるのがインターネッツ。
ネットの向こうにはアバターと違う人がいるし、身バレしたら普通に危険。
ネットの世界がどんなに素晴らしくても、現実を蔑ろにしてはいけないよ。
というインターネットリテラシーの基礎を70歳オーバーのおじいちゃん(心は少年)が教えてくれる素晴らしい映画だ。
ただこの数年でさらにインターネットは一般に普及し、現実世界と大して変わらなくなってきた。
HNは衰退し、顔出し配信や実名投稿は当たり前。
自撮りをうpるやつはバカ、なんて言ったら笑われるだろう。
そう考えると本作のインターネット描写、スピルバーグが提示する健全なネットの在り方もあっという間に古いものになってしまうのだなと、少し寂しくも感じた。
ただ、インターネットの世界で本当の自分を発見し現実でも変わっていく物語は、ネットの善の力を信じている感じがしていい。
膨大な映画、ゲーム、漫画ネタが登場する凄まじい映画だが、もし何か予習すべき作品があるとしたら、それは「シャイニング」と「アタリ ゲームオーバー」だ。
スピルバーグはこのアルティメットエンタメ映画と並行でまったく真逆の社会派ドラマ「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」(こちらも素晴らしい出来)を監督しているのだから凄い。
働きすぎだろ。
また、当初「レディプレ」の音楽をお願いしていたのは盟友ジョン・ウィリアムズだったが、「ペンタゴン・ペーパーズ」とポスプロ時期が被ったため、「BTTF」「アベンジャーズ」などで名曲を生み出したアラン・シルヴェストリが代打に抜擢されたという逸話もいい。
色んな意味でこの映画自体が華の80年代を体現している。