ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「FLEE フリー」(2022)

作品情報

原題:Flee

監督:ヨナス・ポヘール・ラスムセン

制作国:デンマークスウェーデンノルウェー・フランス合作

上映時間:89分

配給:トランスフォーマー

年齢制限:G

あらすじ

映画監督ラスムセンはアフガニスタン出身の男性アミンにインタビューをする。アミンは少年時代、父が当局に連行されたまま行方不明になり母や姉と国外へ脱出した。やがて家族と離れ離れになり、アミンは数年かけてデンマークへと亡命。30代半ばで恋人の男性と結婚しようとしたが、自身の過去のことは恋人にも明かせていなかった。あまりにも過酷な半生を親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める。

www.youtube.com

 

アニメでしか作れなかった、亡命者の強烈な過去

祖国アフガニスタンからデンマークへと亡命した青年の20年間をとらえたドキュメンタリー。

登場する人々の安全のため、一部の人名、地名を変更し、身元特定を避けるためにアニメーションという制作手法を用いたという触れ込みがセンセーショナル。

アカデミー賞では国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門にノミネートされた。

 

映画は主人公のアミン(仮名)が親友の映画監督に過去の体験を語るという形で描かれていく。

アミンはアフガニスタンで父が行方不明になり、残された家族と国外脱出を試みるが、逃亡生活は文字通り地獄のようなもの。

密入国業者とのやりとりや船の中での出会いなど、当事者でないとわからない解像度の難民体験はアニメながら実写以上の生々しさがある。

何より辛いのはさまざまな国を転々とする中で個人のアイデンティティが失われていくことで、はじめは「子供の頃のアイドルでガチのタイプだったのはジャン=クロード・ヴァン・ダム」という微笑ましいエピソードだったゲイエピソードが後半は壮絶さを増していく。

そんな中でも、思い出深い出会いのエピソードがあったり、主人公のゲイとしての自分に向き合う描写も胸を打った。

 

プライバシーを守るために選ばれたアニメという手法だが、非常に生々しいしく実写で描くには壮絶すぎる体験はアニメだからなんとか見届けられたように思う。

それでいてエピソードの衝撃や説得力も損なわないのは脚本とアニメーションがハイレベルだったからだろうと思う。

 

そしてまたしても80年代モンタージュ映像に"Take on Me"を流すとエモくなってしまうことが証明されてしまいました。