ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「クロース」(2019)

作品情報

原題:Klaus

監督:セルジオ・パプロス

出演:ジェイソン・シュワルツマンJ・K・シモンズラシダ・ジョーンズ/ウィル・サッソー/ネダ・マルグレーテ・ラバ/セルジオ・パプロス/ノーム・マクドナルド/ジョーン・キューザック

制作国:スペイン

上映時間:98分

配給:Netflix

あらすじ

怠け者の郵便配達員ジェスパーは、局長である父親から1年以内に6000通の手紙を届けないと縁を切ると言われ、北極圏にある僻地の郵便局への赴任を命じられる。そこは、長きに渡り二つの民族が争いを続けており、手紙を出そうとする者など誰もいなかった。ある日、森の奥で隠れ住むおもちゃ職人のクロースと出会ったジェスパーはクロースのおもちゃを子供達に配達することで返り咲く事を企むが、そんなジェスパーの利己的な行動が村に大きな奇跡を起こす。

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スペインからやってきたディズニー作画の末裔は奇跡の傑作クリスマス映画だった

2018年12月14日、「スパイダーバース」が3DCGアニメというジャンルに革命を起こし、世界を震撼させ世界は一変した。

それからたった11ヶ月後の2019年11月15日。

作画アニメはまだ死んでいないと高らかに宣言する奇跡のアニメがスペインからやってきた。

 

日本では見ている人が少ないのかあまり話題にならないが、本作はアニメーションのアカデミー賞とも呼ばれるアニー賞の7部門を総ナメにした実力派。

傑作アニメーション「ノートルダムの鐘」等を制作していた時代のディズニーに参画し、これまた傑作アニメーション「怪盗グルーの月泥棒」の原作も務めた職人アニメーターセルジオ・パブロスが手がけるサンタクロース誕生の物語である。

傑作すぎて、僕は2019年から毎年この映画をクリスマスに必ず見てます。

 

今時珍しく全編作画にこだわったアニメで、当時全く新しいライティング技術が用いられている。

ディズニーのフルアニメーション技術にこのライティングが合わさった結果、2Dなのに3Dにしか見えないというまさかの「スパイダーバース」の真逆の革命をほぼ同じ年に起こしてしまったのだ。

 

ボディランゲージや表情の付け方から、背景のアニメーションに至るまであらゆる要素が作画時代のディズニーを感じさせる雰囲気。

3DCGアニメと作画アニメ、ディズニーという同じ親から生まれた双子の死んだと思っていた片割れと再び出会えたような喜びと感動が胸に溢れた。

それでいてビジュアルは全く新しい。

ただの作画への回帰ではなく、最新技術を取り入れ常に進化を続け、表現の高みを目指している。

ディズニー作画アニメの遺伝子は人知れず生き残り、驚きの進化を遂げていたのだ。

 

傑出したアニメーション技術も素晴らしいが、「怪盗グルーの月泥棒」の原案を務めたセルジオ・パブロスはお話を描くのも上手い。

憎しみが蔓延する閉塞した村でサンタクロース伝説が流布され、子供たちが明るく良い子になるにつれ村の大人たちも次第に明るくなっていく。

人の心を変えるのは魔法でも力でもなく、見返りを求めない小さな善行の積み重ねだと。

そして、社会を明るくするのは「子どもたちの夢や希望、そして願いである」とするお話のテーマとその語り口があまりにも素晴らしい。

 

登場人物全ての停滞した人生が前へと進み出す文句のつけようがない構成。

これを96分で語り切るなんて。

設定のバラマキと回収も上手いし、結末は情緒に溢れて非常に美しい。

最近でこんなに美しい幕切を見たのは「ギレルモ・デル・トロピノッキオ」くらいではないか。

 

暖かみのある映像と物語が完璧に融合したクリスマスにふさわしい奇跡の映画。

僕の人生の5本には確実に入る傑作です。

 

 

っていう記事をクリスマスが近づいて思い出したので書いたんですが...

まさか少し前のNetflix方針転換で大量キャンセルされた作品の中にこのセルジオ・パブロスの新作が含まれていたなんて......

配信映画の世界は狂ってるZE。

 

この「クロース」にしても、こんな傑作が劇場公開もされず円盤も出てないなんて。

映画好き同士ですらなかなか話題に上がらない。

文化の分断、人類史の損失だ。

アニー賞等で歴史に名を刻んでくれたのがせめてもの救いである。

 

クオリティは保証するので、Netflixに入っている人は今年のクリスマスは「クロース」に捧げてください。

後悔はさせないので。