ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「哀れなるものたち」(2024)

作品情報

原題:Poor Things

監督:ヨルゴス・ランティモス

出演:エマ・ストーンマーク・ラファロウィレム・デフォー/ラミー・ユセフ/ジェロッド・カーマイケル/クリストファー・アボット/スージー・ベンバ/キャサリン・ハンター/ビッキー・ペッパーダイン/マーガレット・クアリー/ハンナ・シグラ

制作国:イギリス

上映時間:142分

配給:ディズニー

年齢制限:R18+

あらすじ

不幸な若い女性のベラは自ら命を絶つが、風変わりな天才外科医のゴッドウィン・バクスターによって身籠っていた胎児の脳を移植されて奇跡的に蘇生する。過保護なバクスターの元で様々な事を学び、「世界をこの目で見たい」という強い欲望に駆られた彼女は、放蕩者の弁護士ダンカンに誘われて大陸横断の旅に出る。大人の体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめるベラは時代の偏見から解放され、平等や自由を知り、驚くべき成長を遂げていく。

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アートを極めた現代寓話とフェミニズムと冒険譚の奇跡の融合

2024年もあっという間に1ヶ月が経ち、もう2月。

アカデミー賞ノミネート作品も決まり、その動向に注目する映画館の時期でございます。

ゴジラ -1.0」「君たちはどう生きるか」「PERFECT DAYS」など邦画のノミネートが多く、また数字にも反映されている様にも感じる。

特にゴジラが受賞することがあれば、その効果は絶大なものになるのではないだろうか。(僕はゴジラとクリエイターが視覚効果賞の二強で多分ゴジラが取ると思う)

 

そんな賞レースを席巻している作品のひとつが先週見てきた「哀れなるものたち」だ。

オッペンハイマー」と並んで今最も注目されている作品で、ヨルゴス・ランティモスの最新作。

尖ったイロモノ系監督で「女王陛下のお気に入り」からはメジャースタジオに魂を売り渡してしまった人、という認識だったが、小規模作品の時から賞レースに名前は上がっていたし、今回もランティモスはやりたい放題だったので、全部僕の思い過ごしだったようだ。

 

あらすじからして「フランケンシュタイン」なのは間違いなかったが、手術で蘇った怪物が美女で博士が化け物みたいな男という捻りの加え方がいい。

19世紀イギリスにスチームパンクとゴシックホラーとモダンな雰囲気がごちゃ混ぜになり、見事なクオリティの美術と衣装で強烈な世界観を画面に作り上げている。

 

衝撃的だったのがエマ・ストーンの身体を張りまくる怒涛の濡れ場ラッシュ。

大まかに言えば第一幕後半で性に目覚めたベラのセックスが延々続くし、後半の物語が転じる辺りも娼館でずっっっっっといろんな男と色んなプレイに興じている。

別に映画の濡れ場なんて死ぬほど見ているしもう中学生でもないのでそれ自体にはなんとも思わないのだが、それにしても「ここまでやるのか」と感心する。

エマ・ストーンはもちろん相手役のマーク・ラファロMCUキャラから脱却するかのように口先だけのヤリチン遊び人を演じている。(途中からどんどん情けなくなってくるんだけど、なんかだんだんちいかわに見えてくる)

 

こうなるとどうしても気になるのが撮影現場の雰囲気だ。

最近のハリウッド映画にはインシマティーコーディネーターというセックスシーンの専門家がいて、俳優と制作者の間に立ち俳優の気持ちの確認をしたり、逆に伝えにくい行為を制作者に変わって俳優に伝えたり、行為の振り付けを考え助言したりもする。

昨今の性的シーンのトラブル発展を気にしてか、今回は「こんなに楽しくセックスシーンをとりましたー!」的な俳優たちのインタビューやプロダクションノートが公開されている。

曰く、エマ・ストーンマーク・ラファロも笑いに耐えない現場で、スポーツに興じるように楽しくセックスの演技をしまくったそうだ。

コーディネーターがそういう雰囲気を作ってくれるならまあそういうのもあるのかもしれないが...にしてもお互い素っ裸でそういう雰囲気になれるもんなのか?と思わなくはないが、そういうものなのだろうきっと。

 

そういう点で久々にR18+の衝撃を浴びたが、この映画は本当に素晴らしいものだった。

映像もさることながら、セリフは少なく音がその代わりを担っていたりと音に非常にこだわっていた。

物語も第二幕の船旅で読書を覚えたあたりから加速的に面白くなっていく。

思えば僕も読書や映画鑑賞から様々な人の思想や人生を追体験し、今の自分が形成されていった。

ベラに本を進めるマダムがまた的確で「〇〇について知りたいなら〇〇を読め」と助言し、ベラもまた本から多くを学び急成長する。

 

世界を旅して多くを学び、立派な一人の女性として成長したベラはロンドンに戻り、そこからクライマックスへ突入するが、これがまたランティモス節が効いていて良かった。

今年のアカデミー賞は「バービー」がまさかの全スルーで驚いたが、この映画を見たら納得した。

いわゆるポリコレ優等生的な内容ではなくあくまでもアートを極めた大胆なや新作だが、それでいてしっかりと女性の権利への認識が高まった現代に突き刺さる映画に仕上がっていた。

 

R18+だがグロさはそこまででなく、あくまでも性行為描写に関するものなのでそこが気になっている人はぜひ見にいってください。

こういう気合いが入った映画を映画館で観られることは、とても幸せなことなのです。