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映画「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」(2024)

作品情報

監督:福田己津央

出演:保志総一朗田中理恵石田彰鈴村健一坂本真綾折笠富美子三石琴乃子安武人関智一笹沼晃桑島法子佐倉綾音大塚芳忠福山潤根谷美智子楠大典諏訪部順一田村ゆかり下野紘中村悠一上坂すみれ福圓美里松岡禎丞/利根健太郎森崎ウィン

制作国:日本

上映時間:124分

配給:バンダイナムコフィルムワークス/松竹

年齢制限:G

あらすじ

C.E.75年、世界から無くならない戦火を沈静化すべく、ラクス・クラインを代表とする世界平和監視機構「コンパス」が創設され、キラたちはその一員として各地の戦闘に介入していた。そんな折、ユーラシア連邦から独立した新興国ファウンデーション王国から、コーディネイター排斥を掲げる団体「ブルーコスモス」本拠地への合同作戦を提案される。

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まさかの超王道エンタメロボットアニメの快作が爆誕

速すぎる時の瞬きに晒されて、18年の時を経て公開されたガンダムSEED最新作映画。

劇場先行プラモのみならず、パンフもグッズもポップコーンセットも入プレさえもほとんどが初日の午前、良くてもギリギリ夜の回で土日分を残さず全滅し劇場は焦土と化した。

僕も劇場であまりの勢いに戦慄したが、いくら吹き飛ばされてもまた花を植えると思います。(再入荷未定)

公開3日で既に興収は10億円を突破し、ガンダムシリーズの興収最高記録である「機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編」の23億円、「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の22億円の突破は確実。

ネットや劇場の熱量を見るに30億稼いで首位に立つのは確実で、下手すれば前代未聞の50億円すら目指せるのではないだろうか。

 

ガンダムSEEDは当時小学生だった僕にとって、やけに頻繁にプリンプリンなお姉ちゃんたちの裸がたくさん出てくるアニメという印象に留まっており、見直して本格的に理解したのは高校生の頃だった。

その頃には普通にガンダムにもハマっていたのでDESTINYまで一気見したが、迷える主人公が悪の手先になり、前作主人公たちが正論と火力でボコボコにする酷いイジメを見たような印象だった。(関係ないけどストフリよりフリーダムが好きなタイプの子どもだった)

とはいえ、僕が好きだったのは00だったのであまり固執することなくスルッと流したのだが、まさか今になって続編を見ることになるとは。

 

正直見る直前まで全然興味がなく、仕事で出勤したらガンダムの動員が凄まじい事になっており、「一応仕事だし流石に見ておくか......」とそこで初めて見る気になったくらいだ。

全然覚えてなかったので帰って大急ぎでHDリマスター版を見たが、種死のエンディングってこんなんだったっけ?

後から調べたら、ラストのキラとシンが和解するシーンは追加シーンらしい。

オリジナルの報われなさが随分軽減されたと思ったら、まさかそんな大胆改変していたとは...

 

そしてSEEDFREEDOMを鑑賞。

端的に言ってこの映画は非常に良かった。

いい意味で見やすくマイルドになったSEEDシリーズという感じで、なんか普通のアニメを見ているようだった。

ネタバレ全開で行くので読むのは映画鑑賞後を推奨する。

 

 

 

複雑な人物関係と世界情勢を描いたテレビシリーズと異なり、この映画は超王道のボーイミーツガールロボットアニメとなっている。

およそガンダムSEEDで見るとは思っていなかった熱い展開に気持ちがいい男女のすれ違い引かれ合う恋愛模様

ぽっと出のくせにちゃんと視聴者の憎まれ役を完璧にこなす気持ちのいいくらいクズな悪役たち。

劇場作品と呼ぶに相応しいボリュームの戦闘シーンに監督の趣味が出まくりの濃厚な艦隊戦描写も大満足である。

 

僕はTVではどこか人間離れして感情移入し難かったキラとラクスが好きではなかったので、今回仕事を抱え込みすぎて家に帰れず。寂しい思いをさせてるラクスと仕事の板挟みになっているキラの描写に非常に親近感を覚えた。

ラクスも責任重大な仕事を抱えているので「仕事と私どっちが大事なのです?」なんて聞く野暮ったい女ではないが、(監督のTwitter曰く)キラへの嫌がらせのためにどう見ても2人分の量ではない食事を作ったりする。

極めて可愛らしい人間味のある描写ではないか。

日付も変わる頃、帰ってきたキラがラクスにブランケットをかけるシーンがあるのだが、ここでキラがラクスの顔にかかった髪の毛を指でかき分ける芝居が描かれる。

画面には寝ているラクスの姿とキラの手元しか映らないが、ラクスの寝顔を見て安心と愛情と申し訳なさが混在するキラの心情を手元だけで表現した見事なシーンだ。

そのまま家でも仕事を続け、今度は起きてきたラクスが寝落ちしたキラにブランケットをかける。

そして朝になり、久しぶりの休暇で一緒の時間を満喫するためバイクでピクニックに向かうのだ。

 

ずいぶん普通のカップルのようで、この一連のシークエンスが大変気に入った。

僕の中ではここで初めてキラとラクスが応援したい主人公とヒロインとして固まった瞬間だった。

オーディナルスケールのパスタを湯切りするシーンで初めてキリトくんのことを好きになったあの現象再びであり、こうなったら物語は勝ち確なのである。

 

詳細は省くがすっかり憑き物が落ちて忠犬後輩になったシン・アスカや、ちょうどいい距離感でシンの女感を出してくるルナマリアの声優夫婦イチャラブを挟みつつ、ラクスとの運命を匂わせてくる胡散臭い間男が現れる。

結論から言うと間男はラクスとセットで人類を導くために作られた上位コーディネイターで、ラクスは彼と一緒になる事が運命づけられていた。

テレビシリーズの頃からみんながラクスの高いカリスマ性に惹かれて付き従ってしまうのには実は理由があったのだと、ここにきて新設定が追加されたのだ。

 

遺伝子によって定められた対になる男に惚れないまでも何かを感じるラクスと、何か不穏な空気を感じでソワソワするキラ。

この映画はどこまでも完璧超人すぎて不快だったスーパーコーディネイターを愛せる主人公に変えようとしているようだ。

 

その後いろいろあり、キラが原因で戦争の火蓋が切って落とされてしまうのだが、BSの特番によるとここまでが2016年に病気で亡くなられた両澤さんの脚本らしい。

ここからは先は福田監督と、ガンダムSEEDの小説シリーズを手掛けてきた後藤リウ先生の共同脚本によって物語が紡がれる。

福田監督の過去作品に「クロスアンジュ」という(無茶苦茶ヤバい)アニメがあるのだが、脚本家は違うはずなのになんだかあれを思い出す無茶苦茶さ加減で、前半と後半でほとんど別作品と言ってもいいかもしれない。

具体的にはアスランが出てきたあたりから明らかに雰囲気が変わってくるのだが、クロスアンジュが好きな僕としてはこれがもう堪らなかった。

本調子ではないとはいえキラとフリーダムを圧倒した相手にズゴックで互角に渡り合うアスランは控えめに言っても面白すぎる。

ガンダムSEEDFREEDOMのフリーダムってそういうことだったのか???

 

極め付けは機体を失い、ラクスに裏切られたとまで思いどん底に落ちてるキラ・ヤマトのシーン。

ずーっと究極超人で全てを達観するような存在だったキラを普通の男の子に戻すにはここまでやるしかない。

散々恨み節を吐いた挙句「だってみんなが弱いから僕が頑張らないといけないんだ」と、そこまで言わせたかと嬉しい反面この空気どうするんだとドキドキしたが、その最悪の空気すらひっくり返すのがアスラン・ザラという男。

ウジウジするキラの顔面に一発決めた瞬間、「よくやったお前!よくやったぞ!」と立ち上がりそうになった。

画面の中に手を出せない視聴者が一番やってほしいことをやってくれるキャラクターは大好きだ。

逆ギレして殴りかかるキラに「強さは力じゃない!生きる意志だ!」と言いながら攻撃を全て受け流して一方的にボコボコにするし、「一人で背負った気になって嫌になったら全部捨てるのか?随分なヒーロー様だな!?」と相変わらず切れ味抜群の正論男すぎてなんかもう笑えてくる。

何故か止めに入ったシンもキラとアスランに一発ずつ殴られてるし。

でもこのシーンのおかげで様々な呪いから解放されて、キラの動機が「またラクスに会いたい」のひとつに絞られた。

これは愛の映画なんだよ。アスランカガリの愛も凄まじいことになっていたしな...)

 

旧機体登場はなかなか熱かったけど、中でもデスティニーの活躍は別格だった。

「君らが弱いから」というキラの傲慢を吹き飛ばすようにデスティニーとシンのコンビが4機をほぼ一人で撃破する衝撃のシン・アスカ無双は熱すぎてまた立ち上がりそうになった。

何も考えてなかったり闇が深かったりステラがゲスト出演したりと、ちょいちょいクロスアンジュを彷彿とさせながら最後はまさかの分身殺法。

細かく気になることはあるかもしれないが...ごめんなさい、そんなことがどうでも良くなるくらい楽しかった。

この映像と音の快楽に身を委ねた方が楽しいし気持ちいいんだもん。

抗えないのよ。

 

キラがラクスを助けるシーンも素直に良かった。

なんかキラキラしていてエウレカセブンを見ているような気分になった。

捕まってる時のラクスの「必要だから愛するのではありません!愛しているから必要なのです!」は名言だし、ちょっとえっちな感じになっても屈しない女騎士みたいになって一人になった後ちょっと泣くの、ヒロイン度高すぎてたまらんかったね。

人を導く遺伝子を持って生まれたのかもしれないけど、そんなものよりキラの愛があればいいとする毅然とした態度が素晴らしすぎる。

ガンダムで、しかもSEEDでこうも王道な好き同士の男女の物語を、定められた運命に抗うというシリーズの軸でもあるテーマに沿わせて見せられたのが、本当に2〜3年ぶりの新作映画くらいの手触りで出せるのがすごいと思った。(でも多分18年経ってるからこの評価でもあるんだろなぁ)

 

極め付けはラクスとキラのドッキング(意味深)でロウを彷彿とさせる実体剣とビームサーベルの二刀流を携えた複座式マイティフリーダムガンダム爆誕

もうここまで来たら勢いでぶち抜けと言わんばかりの大クライマックスの熱量に思わずグレンラガンを思い出した。

スカしたところが好きじゃなかったのにこんな熱い一面を見せられたら......好きになっちゃうよ。貞本エヴァ現象)

 

最後はラクス様のナレーションで全部説明してまとめたのでマジかよってちょっと引いたけど、2時間ちょいギリギリまでバトル詰め込んでエンドロールに片足突っ込んじゃったんだし、もうそこは素直に「お前はよく頑張ったよ。これだけのものを作ったんだぜ」と称えるべきなんじゃあないかな。

気になるところが多々あれど、それを全てどこかに押し流す演出の熱量とバトルの物量で劇場ロボアニメの快作をSEEDで作ってしまった。

SNSの事とかでたまに変な話題になっちゃう福田監督だけど、やっぱものすごい物作る監督ね。

CGも予告編では不安だったけど見せ場を作画できっちり締めつつ、スピーディーでかっこいいCGの戦闘シーンも結構たくさん作れてた。

あれってどこのノウハウなんだろう?

 

もう長すぎる書き殴りになってしまったので切り上げよう。

ただでさえガンダムというコンテンツだしもちろん賛否あるのは当然だが、それにしても絶賛の声が多いように感じるのは、受け入れやすい王道のロボットアニメーションに仕上がっているからに他ならないだろう。

なんだかんだ気持ちのいい綺麗なSEEDを見られたことで満足して成仏した人がたくさんいるようだし、まあみんな喜んでるならそれでいいのではないだろうか。

福田監督も「みんなに喜んで楽しんでもらえる映画を目指しました」と言っていたが、その点は大成功と言えるだろう。

ガンダムの歴史を塗り替える大記録を打ち立てて、ぜひこの閑散とした初春の映画館を賑わせてほしい。