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映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「ゴジラ -1.0」(2023)

作品情報

監督:山崎貴

出演:神木隆之介浜辺美波山田裕貴青木崇高吉岡秀隆安藤サクラ佐々木蔵之介

制作国:日本

上映時間:125分

配給:東宝

年齢制限:G

あらすじ

戦後間もない日本。焦土と化し、全てを失ったこの国に追い打ちをかけるように突如ゴジラが出現する。圧倒的な力で復興しかけた日本を蹂躙するゴジラ。絶望のどん底に落ちた名もなき人々は、ゴジラに対して生きて争う術を探っていく。

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邦画のVFXはまた新たな領域に

毎週とめどなく流れ込む新作映画を追いかける日々は僕から時間の感覚を奪い、気がつけば今年も残りわずか。

好調だった上半期に比べてどうにもピリッとしない後半戦が続いていますが、この映画はそれを吹き飛ばしてくれるのでしょうか。

 

シン・ゴジラ」以来の国産実写ゴジラシリーズとして期待されている本作。

ゴジラシリーズといえば誰もが知る有名シリーズだが、歴代の興収は20億に届かないものがほとんどというのが意外なところ。

ハリウッド版はもう少し稼ぐかもしれないがなんにせよ80億円も稼いだ「シン」が余りにも稀有な例であり、あの熱狂を期待すると肩透かしになるのではと内心冷めた気持ちではいる。

ただ、その「シン」が作った土壌が存在するはずなので流石に30億は確実に、ハマれば50億はいけるかなとは思っている。

 

実際VFXはかなりのクオリティで、動きが硬く感じるところもあるがぱっと見はハリウッドにも引けを取らないルックが作れていた。

特に海でゴジラと戦うシーンは圧巻で、「アルキメデスの大戦」などで積み上げてきた水や波の描写はもう海外レベルに到達していると思う。

 

何故ここまで出来るのかというと、やはり山﨑監督とCGスタジオの白組の関係性にあると思う。

「シン」の時は出来上がったVFXをカラーや庵野さんに送ってチェックする体制だったと思われるが、返事が来るまで数週間かかる事もあったという。

一方、山﨑貴監督は白組にいるのですぐフィードバックができる。

VFXはフィードバックの速さがクオリティに直結するので、監督チェックの返事が3週間から1時間に短縮されればブラッシュアップに取れる時間の差は歴然。

しかも、ちょっと迷ったら会社にいる監督に聞くことが出来るので、1週間かけた作業が実は要らないこだわりだったなんて事もなくなる。

 

クレジットのVFXスタッフの少なさにも驚いた。

僕は作画アニメの担当者の個性が出た画面を見るのが好きなのだが、CG映像でもここまで少人数だと画面によって結構個性が出るもんだなぁとこの映画を見て認識を改めた。

しかも、あの衝撃的な銀座のシーンはほとんど1人のスタッフが担当したのだという。

ハリウッドのスタジオは1秒のVFXシーンに1人が数ヶ月かけ、それを数百人で分担するという体制がほとんどだと思われるが、白組に関しては少数精鋭の職人業でこれを成し遂げた。

ほとんど伝統芸能のような話だと思うし他には真似できないと思うが、ひとつのケースとして日本映画界が世界に誇れる話題のひとつになるだろう。

 

少し映画の内容に触れてしまうので未見の人はここまでにしてほしいのだが、個人的にとても気に入ったのが冒頭の大戸島のシーン。

深夜、島に上陸したゴジラが基地を破壊するシーンで、パニック映画の怪物のように明確な殺意を持って襲ってくる動物的ゴジラの描写がとても良かった。

ここは特に昨今のモンスターユニバースでのゴジラっぽいナマモノ感を感じたのだが、僕は明確にローランド・エメリッヒゴジラに対する熱いオマージュと受けとった。

エメゴジはゴジラの名を冠したただの恐竜が暴れるだけの映画と揶揄されがちだが、ハリウッド映画の影響が強い山﨑監督はおそらくアレも愛しているのだろう。

かくいう僕もそんなに嫌いではないので、映画冒頭いきなりあんな最高のラブレター映像を見せられたら「これ絶対マグロ食ってるじゃん!!!」と熱くならずにはいられなかった。

 

これは合ってるかわからないけど、今回のゴジラは元々存在した巨大生物がビキニ環礁の核実験に巻き込まれて凶暴化してしまったという認識でいいのだろうか。(トカゲが巨大化したわけではなく)

冒頭の荒々しい野生動物の動きが銀座以降はなりを潜めて「シンゴジ」のような(いわゆる能っぽい)動きになり、涎も垂らさなくなった。

最初は米軍がゴジラ核兵器で倒そうとした設定に変わった「ギャレゴジ」と同じ選択をしたのかと少しガッカリしたのだが、放射熱線を吐くようになったタイミングも考えるとどうにもその方が筋が通ってる。

広島と長崎に核を落としたアメリカがゴジラを攻撃するために再び核を使う過ちを犯す。

その過ちから生まれたゴジラは東京のど真ん中で放射熱線を発射するが、それはもう間接的なアメリカから東京への核攻撃と言っても過言ではない。

 

本作のゴジラは殺意と放射熱線の破壊力が過去一で人類(そして主人公)に与えるダメージも相当なので、倒さなきゃという使命感が湧いてくるほどなのだが、ゴジラの方も人類の業で怪物にされてしまった存在と言える。

脅威の再生力で自分が生きてるのか死んでいるのかもわからぬ亡霊。

吐き出した熱線から発生したキノコ雲に咆哮する姿はなんだか哀しんでいるようにも見えた。

 

しかし、今になって思えばあれはあえてボカしたのかもしれない。

あのクロスロード作戦のシーンは、ゴジラという生物が核実験に巻き込まれたとも、ゴジラ核兵器で倒そうとしたとも、どちらとも取れる非常に中途半端な描写に見えた。

本作はアメリカ市場も本気で狙って宣伝が打たれている。

日本とアメリカ、どちらの観客にも都合よく受け取れるようにしたと考えるのが自然ではないでしょうか。

 

正直人間ドラマは見ていて辛かった。

主人公が可哀想とかじゃなくて、説明的な演技や演出が多く、ドラマの推進力も人が言い争ったり声を荒げるの一点張り。

抑えた演技でいい味を出してたのは安藤サクラと明子役の女の子くらいだろうか。

邦画のよくないところとも言われるが僕は一概にそうとも思っていない。

予告編でそのシーンだけが抽出されていきなり出されても気持ちが置いて行かれて引いちゃうってだけで、文脈を汲んでいけばそんなに違和感のあるシーンはないのだが、今回はそこしか引き出しがなくて辛かった。

「シンゴジ」を語る際によく用いられる「人間ドラマがない方が面白い」というのは極論だが、もう少し抑えたり削った方が僕は好きだった。

「マイゴジ」は「シンゴジ」で省いたものを逆に取り込み同じレベルまで磨き上げたファンとは相性が悪かろう。