ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」(2023)

作品情報

原題:Killers of the Flower Moon

監督:マーティン・スコセッシ

出演:レオナルド・ディカプリオ/リリー・グラッドストーンジェシー・プレモンス/ロバート・デ・ニーロ/タントゥー・カーディナル/カーラ・ジェイド・マイヤーズ/ジャネー・コリンズ/ジリアン・ディオン/ウィリアム・ベルー/ルイス・キャンセルミ/タタンカ・ミーンズ/スタージル・シンプソン/ジョン・リスゴーブレンダン・フレイザー

制作国:アメリ

上映時間:206分

配給:東和ピクチャーズ

年齢制限:PG12

あらすじ

1920年代、オクラホマ州オセージ郡。先住民のオセージ族は、石油の発掘により一夜にして莫大な富を得た。それに目をつけた白人たちは彼らを巧みに操り、脅し、ついには殺人にまで手を染める。

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スコセッシ流ギャング映画の規格でアメリカの黒歴史を描いた重厚なドラマ

歳をとると時の流れが早くなるといいますが、最近はマジでそれが早い。

なのにありえんくらい気温の高い日々が続き、季節感が完全に消滅しているが明日にはもう12月。

冬休みや年末年始が近づき、新たな繁忙期に期待を寄せて準備を行う時期ですが、大事なことを忘れてた。

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」を観ていなかったのだ。

 

アイリッシュマン」に続き206分という長大な尺とシリアスな内容に気圧されて後回しになってしまいました。

映画館勤務の立場を利用して良さげな映画をいち早く察知し、話題にして一人でも多くに気づいてもらいたいというブログの趣旨に反してしまう上映前滑り込みエントリーですが、あまりの傑作に書かずにはいられない。

 

ジャーナリストが当時の先住民連続殺人事件について描いたノンフィクションのベストセラー「花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生」を原作に巨匠マーティン・スコセッシが映画化。

 

時代はまだ西部開拓時代から間もない1920年代。

地元の名士であるおじを頼ってオクラホマにやってきた戦争帰還兵のアーネスト。

金持ちのアメリカ先住民が白人たちを使用人として雇う当時としては異様な世界だが、白人たちはその財産を奪い取ろうと陰謀を張り巡らせていた。

 

善人ぶって腹の中は真っ黒な名士をやらせたら右に出るものはいないスコセッシの相棒ロバート・デ・ニーロと、彼の甥でひたすら周りに流され続けるどうしようもない男を演じるレオナルド・ディカプリオ

モラルが壊れた善にも悪にも見える曖昧なキャラクターで混乱させられるのは非常に楽しいし、演じる彼らも腕の見せどころでやりがいがあるだろう。(愛と罪悪感の狭間でめちゃくちゃになるディカプリオの顔は必見)

野心に身を任せて悪行三昧を繰り広げ、上げるだけ上げて最後にブチ落とすいつものスコセッシギャング映画のフォーマットで描かれる。

 

3時間半もの長尺で紡いだ石油マネーをめぐる大謀略サスペンス。

普通に長く感じるし疲れるが、退屈な時間は全くない。(これが結構重要で一緒くたにしがちだが、長く感じる事と退屈なことは全然違うのだ)

冒頭から映画の世界へ観客を一気に誘い、ドラマに没入させる工夫がキチンとなされてる。

その演出に一役買っているのが環境音で、膨大な金と手間がかけられたドラマ映画こそ映画館で観るべき作品だということを思い出させてくれる。

 

前半2時間くらいは誰も止める人がおらず悪が蔓延り続けるのでその絶望感ったらないのだが、満を持して登場する捜査官ジェシー・プレモンスで一気にギアが代わり歓声が上がりそうになった。

あれ、これヒーロー映画だっけ?

ここでフーヴァーの名前が出てくるのでこれがFBI誕生の物語も孕んでいることに気づいたのだが、原作からしてそういうタイトルだったのね。

 

スコセッシ作品を見たことがない人にとって彼は「マーベル映画叩きのおじいさん」という印象しかないだろう。

映画と一括りに言っても様々なジャンルがあるので、どんな映画があってもいいし人によって好き嫌いがあるのは当たり前。

「映画」という言葉がエンタメと芸術の狭間でどちらによった重み付けがされているか、それが「映画」でなくなる一線はどこにあるのか。

尺度は人によって違うのでこれほど不毛な議論はないのだが、スコセッシのマーベル批判であまり触れられることのない後半部分である「人間の感情的、肉体的な経験を他人に伝える映画」がきっと彼の中の映画の定義なのだろう。

そして、彼は自分の映画でそれをきちんと表現し高い評価を得ている。

スコセッシの語るマーベル映画の本質的な欠陥は的を得ていたし、マーベルが今どん詰まっている理由のひとつでもあるだろう。

クソ映画を作ってたら何言ってんだこの爺は、ともなるがこれを見せられたら文句は言えませんわ。(マーベルだってスコセッシに作れない映画を作ってるしお互い様なんだけどね)

 

という無意味なマーベルへの苦言みたいになってしまったが、ピークより落ちたとは言えマーベル映画が今でもしっかり稼いでいるのは事実だし、僕はマーベル映画大好きで応援しています。

ピークがすご過ぎて長い映画史にひとつの時代として存在を刻んだジャンルを続けるのは大変だと思うけど、頑張ってほしい。

 

何故かマーベル映画の話で締めてしまった。

もう上映劇場もあまりないのでApple+しか見る手段ないと思いますが、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」はすごいクオリティの映画なので興味があれば是非見てください。

 

あと、もしまだ劇場でかかってたら行ってあげて下さい。

劇場もだいぶリスク背負ってるし、何より長い映画は劇場に身体を縛り付けて無理やり流し込むに限る!