ご一緒にこちらの映画はいかがですか?

映画館で働きながら、たくさんの映画と映画を観る人を見つめています。

映画「アメリカン・フィクション」(2024)

作品情報

原題:American Fiction

監督:コード・ジェファーソン

出演:ジェフリー・ライト/トレイシー・エリス・ロス/エリカ・アレクサンダー/イッサ・レイ/スターリング・K・ブラウン

制作国:アメリ

上映時間:118分

年齢制限: G

あらすじ

インテリ作家のモンクは自身の著作に”黒人らしさが足りないから売れない”と評されている事に不満を持っていた。世間が求めるステレオタイプな黒人の小説を求める世間の雰囲気を感じ取っていた彼は、病気の母に高額な介護費を稼ぐため、半ばヤケクソ的に思いつく限りの”黒人要素”を詰め込んだ小説を書き上げる。すると、その小説は大ヒット。年間ベストセラーとなりハリウッド映画化の依頼まで舞い込んでしまう。

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エリート黒人が世間の求める「みじめな黒人」の小説を書いてみたら

今日も映画館の片隅からこんにちは。

最近身体の調子が良くて、この前「マダム・ウェブ」を見てから10日連続で映画を見れております。(うち劇場6日、2本以上ハシゴが2回)

3月の頭に入った弊社においては、「名探偵コナン」のムビチケが飛ぶように売れてビックリ。

去年、遂に130億越えの大ヒットをかましたコナンくん。

今年はキッドと平次が主役との事で、去年の黒の組織に比べるとやや落ちるか?と思いもしたが、そんな心配は杞憂だったようですな。

今年も最大限の準備で臨む所存であります。

 

さて、そんな3月の頭に早速見たのが「アメリカン・フィクション」という映画。

家族がみんな医者で自身も大学で教鞭を取りながら小説を執筆する黒人男性のモンク。

大変裕福で豪邸に住まい別荘も持つような金持ち一家に生まれ育ったモンクは、ややスノッブ気味のお高く止まった男だ。

彼の小説は全く売れておらず、純文学を書いているのに本屋の「黒人作家」の棚に入れられている事に対して「世間がバカだから」と思っている。

そんな彼がドラッグや殺人が盛りだくさんで白人警官に撃ち殺される的な、如何にも世間が求める黒人っぽさを詰め込んだ小説を書いたら白人たちに大ヒット。(ていうか黒人の裕福な方の人たちにもブッ刺さってしまう)

嫌すぎるので指名手配犯でこの前まで服役していた男という設定のペンネームを作り上げ、正体を隠しながら出版社やハリウッドの映画化担当者たちとやりとりする事になる、というお話。

 

こういった黒人の差別に関する映画はいつも時代の写し鏡だ。

80年前に作られた映画史に残る傑作「風と共に去りぬ」が差別的として配信サイトから一掃された事が記憶に新しいが、80年前なんだから勘弁してやれよと思う。

 

それでいうと本作は、「黒人を差別してないと信じている人たち」「世間の無自覚な差別」を黒人側の目線から見つめた様子を描いている。

ここまでくると「別に差別なんかしてないのに黒人側が気にしすぎなんだようるせえな」と思う人もまあまあ現れてくるのだが、それについては主人公が大学をクビになるシーンが面白い。

主人公が「ニガー」という黒人を侮蔑する用語の説明をするシーンで、白人の学生が「不愉快な言葉なので聞きたくありません」と抗議する。

主人公は「悪い言葉だが語源や歴史を知ることは大切」と説くが、学生は部屋を出て行ってしまい、このゴタゴタが原因で大学をクビになってしまう。

 

ほんの数十年前、黒人はバスに乗れないとか専用のレストランがあった頃に比べたら今は随分理解が進んだように見えるが、逆に理解していると思い込んでいる人が増えたとも言える。

黒人は惨めでかわいそうという印象が先行し、それを求めてすらいるとこの映画は言っている。

主人公は裕福な黒人なのでもはや貧困黒人をエンタメとして消費している世間にズレを感じているし、白人はそんな黒人に対する自分達の今の態度を免罪符にしていると考える。

 

そんな内容なのに、この映画自体は非常にライトなコメディ映画として見やすい仕上がりになっているのが素晴らしい。

世間に合わせないと売れない現実や、「俳優やプロデューサーは原作なんて読まない。エージェントの要約を見て読んだ気になって映画にしている」と商業的思想で原作を金のなる木にしか思っていないハリウッドを笑い飛ばすサイドメニューも秀逸で面白い。

そんな主題と並行して語られるのが恋愛や家族の介護など、主人公や周囲の人たちについて回るフィクションではないリアルな人生問題。

 

色々難しいテーマのようにも感じるが、「やりたい事とやれる事は違う」という言い方に置き換えれば仕事をする社会人ならほぼ全員が共感できる話題なのではないだろうか。

日本では配信オンリーになってしまったのは残念だが、題材から考えても妥当なところだろう。(それを認めるかは別にして)

DVDスルーになっていた頃に比べたらそれなりのライブ感で映画を楽しめているのでマシだと僕は感じています。

 

名バイプレイヤーのジェフリー・ライトが堂々の演技で主演を張っているのも見どころ。

アカデミー賞も騒がせている作品なのでAmazonプライム・ビデオに入っている人は是非ご覧ください。