作品情報
監督：ヴィム・ヴェンダース
出演：役所広司／柄本時生／アオイヤマダ／中野有紗／麻生祐未／石川さゆり／田中泯／三浦友和／田中都子／水間ロン／渋谷そらじ／岩崎蒼維／嶋崎希祐／川崎ゆり子／小林紋／原田文明／レイナ／三浦俊輔／古川がん／深沢敦／田村泰二郎／甲本雅裕／岡本牧子／松井大悟／髙橋侃／さいとうなり／大下ヒロト／研ナオコ／長井短／牧口元美／松井功／吉田葵／柴田元幸／犬山イヌコ／モロ師岡／あがた森魚／殿内虹風／大桑仁／片桐はいり／芹沢興人／松金よね子／安藤玉恵
制作国：日本
上映時間：124分
配給：ビターズ・エンド
年齢制限：G
あらすじ
渋谷のトイレ清掃員として働く平山は、淡々とした同じ毎日を繰り返しているように見えるが、彼に取って日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。昔から聞きづつけている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読む事が楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。
なんてことない毎日が特別になる
カレンダーガールは偉大だ。
それはさておき...
ヴィム・ヴェンダースが愛する日本で素敵な映画を撮ってくれた。
無口で孤独に生きるトイレ清掃員の同じようで同じでない毎日を切り取ったこの映画は、ジム・ジャームッシュの「パターソン」に手触りが近い。
なんてことないが何もないわけではない。
そんな日々を生きる事が実は何よりも幸せだということを、主人公の姿を通して再確認できるのがこういった映画の良いところだ。
「パターソン」で見事にパターソンさんを演じたアダム・ドライヴァーと同じく、完璧なソロ充トイレ清掃員の平山を演じた役所広司はカンヌでパルムドールを受賞。
遂に柳楽に追いついたと叫んだ役所広司の演技は本当に素晴らしい。
ほとんどセリフがないのに喜怒哀楽あらゆる感情を表現し、平山という人間の存在を感じさせる。
必要最低限で質素に生きる平山の過去や周囲の人々との関係は一切説明されず、映画に切り取られた部分で察するしかない。
平山のタイムループ並みのルーティンに、毎日少しずつ起こる些細な出来事が与える違いのある人生が美しく、羨ましく見えてくる。
そもそもは渋谷区のトイレ事業（主人公が来ている服にも名前が書いてある）を筆頭に、ローソンやユニクロ等の大企業が集まり作られた映画だ。
金持ちが質素に慎ましくトイレ掃除で生きる人が幸せだよね、っていう映画を作ったのが気持ち悪いのか、映画自体は素晴らしいが映画のメッセージと制作体制の乖離に疑問を抱く人が多いらしい。
元金持ちらしき主人公がトイレ掃除を生業として幸せを感じる映画を金持ちが作り、我ら庶民がそれを観て今の生活を幸せだと感じる、これって洗脳だよねと。
言わんとしている事は理解できるし、確かになんでだろうとは思うが、それでこの映画を無価値と断じることには疑問を感じる。
それが本当は泥水を啜った事がない金持ちが天の上から描いたエセ貧困だとしても、小津を敬愛するヴィム・ヴェンダースがこの東京の地と日本を代表する俳優で作り上げた事は違いない。
ハリウッドスターにも貧乏人なんていないが、そこに同じ批判的目線を普段から持っている人はどれくらいいるのだろうか。
そこにどんな意図があるかはわからないが、何にせよ映画としてのレベルは非常に高かったと僕は感じた。
そのことだけは事実だ。
でも脚本の小説家の人の趣味なのかな？
若い水商売女に「カセットの音、いいよね」って言わせるのはちょっとキモかったかな。
おじさんの夢って感じで。（それ言ったらこの老楽の日々全てがそうかもしれないが）
お粗末様でした。
