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映画「ワンダーウーマン 1984」(2020)

作品情報

原題:Wonder Woman 1984

監督:パティ・ジェンキンス

出演:ガル・ガドットクリス・パインクリステン・ウィグペドロ・パスカルロビン・ライトコニー・ニールセン

制作国:アメリ

上映時間:151分

配給:ワーナー・ブラザース映画

年齢制限: G

あらすじ

スミソニアン博物館で働く考古学者のダイアナには、幼い頃から訓練を受け、その秘めた力で世界を守る戦士ワンダーウーマンというもう一つの顔がある。1984年、「どんな願いも叶える宝」を手にした実業家マックスの陰謀により人々の欲望が暴走し、世界は狂乱に飲み込まれる。ダイアナの前にも70年前に死んだスティーブが現れ、彼女は恋人か世界かという選択を迫られる。

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夢と希望の大切さを思い出させてくれる、ヒーロー映画の王道に立ち返った快作

清々しいまでに夢と希望と正義に溢れた正統派スーパーヒーロー映画に立ち返った映画。

コロナ禍の厳しい時期に公開されたこともあるが、こんなにも大傑作なのになぜか映画の評判は著しくない。(正直理解に苦しむ)

僕は「スパイダーマン2」や「アメイジングスパイダーマン2」が大好きなのだが、この映画には非常に近いスピリットを感じた。

確かにアクションシーンは微妙だが(冒頭のモールのシーンは好き)、ドラマパートの圧倒的な完成度がその欠点を補ってあまりある。

 

何でも願いが叶う石を手に入れ暴走する悪役の登場や、映画のカラーとなる教訓的テーマはまるで児童向けおとぎ話のように見えるだろう。

そんな悪役には演技派ペドロ・パスカルを配し、己の欲望から力を持つ石に傾倒していく姿を最高の芝居で表現した。

彼は当時の映画で流行っていた「とりあえずドナルド・トランプっぽい悪役」を主人公が倒すという安直な解釈ではなく、息子に裕福な暮らしをさせたい、成功している自分を見せたい、そんなどこにでもいそうな人間として役を表現している。

ガル・ガドットも前作に続きこの世のものとは思えぬ美しさ。(オードリーの時代から非現実的ともいえるレベルの美を求めるのも映画の醍醐味のひとつだ)

ただ美しいだけではなく、ガル・ガドットは強さも弱さも持ち合わせた複雑なダイアナ像を作り上げている。

彼女は恋人を失った悲しみに向き合い、苦悩し、戦時中にできなかった「普通のデート」を満喫し少女の様に喜ぶキュートな姿も見せる。

前作では現世のガイド役を務めたクリス・パイン演じるジェームズが、今度はダイアナにガイドされる側になる構成の工夫も面白い。

80年代のエネギッシュな時代に合わせメジャー調のアレンジで、映画が描く希望や善意を音楽という形で完璧に表現したハンス・ジマー版の「ワンダーウーマンのテーマ」はもはや映画音楽の神様が降臨したと言っても良いだろう。

 

虚栄心や欲望という誰もが持つ弱さに漬け込まれた人間の悪事をワンダーウーマンは力で解決しない。

彼女の深い慈愛と信念、人の良心に宿るヒーローの存在を信じてそこに問いかけるという脚本があまりにも素晴らしい。

嘘やズルはいけないとか、愛は世界を救うとか、そんな当たり前すぎる教訓は真正面から描くほどまばゆく輝く。

ヒーロー映画というフォーマット以上に、このテーマを取り扱うに適したジャンルはないと僕は考えていて、赤い煌めきを増した新衣装がそれを物語っているようにも感じた。

 

人は目標となる対象の姿を認識することで、初めてそれを目指すことができる、そうなれると信じることができる。

(それ自体が悪いとは言わないが)女性版007企画や女性版オーシャンズといった男性キャラのヒットIPを単純に女性に置き換えたものを作るよりも、女性ならではの新しい創作で世界中の女の子の目標に、人生の道標になるような映画があればいいと僕は願っている。

強さと優しさと弱さを兼ね備えた素晴らしい女性が主人公のこの映画にはその可能性を感じたし、パティ・ジェンキンスの作家性に感動して一生ついていこうと思った。

 

まとめ

映画を構成する全ての要素が多幸感に繋がり、見終わったあと世界が少し違って見えるような、ポジティブで幸せな気持ちになる物語を、素晴らしい俳優陣(特にガル・ガドットペドロ・パスカル)のエモーショナルな演技が支えている。

政治的メッセージよりも夢と希望と正しい生き方を示す、それこそがヒーロー映画の役割で、この映画はその原点に立ち返った大傑作だ。

公開がズレまくってクリスマスになってしまったのも、結果的にそれも大変いい影響をラストに及ぼした。

エンドクレジットのおまけシーンまで完璧な仕上がり。

最高の気持ちで僕は劇場を後にした。

この映画の再評価を待つ。